地域枠の攻略は面接が鍵…「シュバイツアーの伝記に感動」はNG

日本の医療界における長年の問題の一つに「医師偏在」があり、都市部(なかでも東京圏)に医師が集中している現状がある。この一極集中への対策が「医大入試における地域枠」である。2020年度の実績では、医学部総定員9330人中1679人(18.2%)が地域枠とされている。

地域枠は偏差値的には若干低いが、小論文や面接などで地域医療への熱意を確認され、「医学部卒業直後から9~11年程度の指定地域での勤務」が義務化されている。従来は「指定地域での勤務」が紳士協定であり「奨学金返金」以外の罰則がなかったため、「結婚」「子育て」「祖父の介護」などを理由に都市部に転居する、いわゆる「足抜け」と呼ばれる義務放棄が後を絶たなかった。

そこで厚生労働省は、2019年からは「足抜けした元地域枠医師を雇った病院には、補助金減額」という一歩踏み込んだ策を講じた。さらに2020年には、「足抜けした元地域枠医師は、専門医資格が得られない」という規則を追加している。よって「偏差値低めの地域枠で郷土愛をアピールして、まんまと医師免許をゲットした後に、東京に戻る」という作戦は、今後は失敗に終わる確率が高い。

社会人が地域枠受験を目指す場合、「出身地ではない地域枠を受験」するケースでは面接で厳しく追及されることが多い。面接官は地域医療のプロなので、少なくとも「シュバイツアーの伝記に感動」「豊かな自然が魅力的」のような薄っぺらい説明では、合格はおぼつかないことを覚悟すべきだろう。

養子で「同窓会枠」という裏技もある

前述の「大学医学部入学試験制度に関する規範」では、「同窓会枠」が認められている。

例えば、東邦大学医学部には「同窓生子女入試」があり、2020年11月に試験が実施された。対象は、「本学医学部の卒業生または医学部在学生の血族2親等までの者」で、募集人員は5人。選抜方法は、「適性試験、基礎学力、面接、調査書」である。

かつて、医師会の宴席などで「実は、○○医大の同窓枠は10人あるらしい」などとヒソヒソ話されていた枠は、インターネット上で確認できる公認の制度となったのだ。

写真=iStock.com/Nikada
※写真はイメージです

「父または母が卒業生」であることを要件としている大学が多いが、「実子のみならず養子もOK」であることも多い。実際、開業医ファミリーなどでは、「自分の子どもの学力がイマイチの場合、優秀な親戚の子供に学費を支援して後継者にする」ことは珍しくない。少子化で後継者不足に悩む開業医も増えているので、社会人の医学部受験に興味がある読者は、近しい親族に同窓会枠のある私立医大卒業生がいれば、ぜひ相談するといいのではないか。

なお、東京女子医大の同窓会枠は「3親等までOK」である。昭和時代、すなわち「仕事と育児の両立が今よりはるかに困難だった」頃の開業医ファミリーでは、「優秀な娘は女医、そうでない娘は出産育児」と“役割分担”することで、「伯母から姪」に院長のバトンを渡すパターンが散見された。その名残なのかもしれない。