普通に仕事ができることが一番
いかにも猛烈サラリーマン風の阿部だが、仕事観を尋ねてみると意外な答えが返ってきた。
「普通が一番だと思いますね。40代の頃までは血の気も多かったから、営業でも開発でも頂点に立ちたいなんて思っていましたが」
2つの大きな出来事が人生の価値観を変えていった。
1つ目は1997年のことだった。その年は、新設された大連工場のお披露目パーティーが予定されていた。阿部は中部支店長として、招待したVIPに対応しなければならかった。そのパーティーの開始直前、仙台の家族から電話が入ったのだ。家族に大きなアクシデントがあったという。
「目の前が真っ暗になりましたが、欠席はできませんでした。私の様子がおかしいのを当時の専務に見抜かれて、別室で注意を受けました。その時、仕事は何のためにするのだろうと考えてしまいました。家に帰ったら家族が揃っていて普通に仕事ができることって、なんて素晴らしいことなんだろうと」
2つ目は2011年に東日本大震災を仙台本社で経験したことだ。幸いなことに家族も自宅も無事だったが、東北地方に想像を超える大きな被害をもたらした。阿部は大津波によって多くの尊い命が犠牲となった悲惨な現実を目のあたりにした。
「夢のない話かもしれませんが、大震災を経験して平凡な日常が大切であることを痛感しました。だから、普通に、平凡に仕事ができることに感謝し全力で仕事を行う事が一番だと思うんです」
同時に阿部は、自社の商品がいかに生活者を支えているか、アイリスオーヤマがいかに社会貢献している企業であるかを再認識し、さらに頑張っていこうと決意を固くしたという。
パワーアップする大山会長「私が疲れたなんて言えない」
阿部はいつまで仕事を続けるつもりだろう。
アイリスの定年は60歳。それ以降は再雇用という形になる。阿部のように65歳を超えても一線で勤め続けている例は現状ではほとんどない。
「大山会長に出会って会社の成長を一緒に体験させていただいたことは、私の一生の財産です。以前は65歳までと考えていたし、若い人に活躍の場を譲らなければという思いもありましたが、75歳の会長はますますパワーアップしている。私が疲れたなんて言えませんよ」
会社側にしてみれば、大山会長に心酔している阿部のような社員は、会長の“腹心の部下”として、余人をもって代えがたい存在なのだろう。
趣味は広く浅く。妻と一緒に旅をしながら、神社の御朱印を集めるのもそのひとつだ。
「昔はいろんな願い事をしましたけれど、いまは、家族みんなが無事でいられますようにと、それだけですね」