※本稿は、平井孝志『人生は図で考える 後半生の時間を最大化する思考法』(朝日新書)の一部を再編集したものです。
リスクをベースにした意思決定を
昨今の風潮は、ポジティブ礼賛社会。そんななかで「ポジティブすぎるのはいかがなものか」なんて言うと、すぐに反論されそうです。
しかし、転職や早期退職を考えるときに忘れてはならないのは「リスク」です。「禍福はあざなえる縄の如し」とはよく言ったもので、ポジティブにチャレンジする際には、必ずリスクが伴います。そのリスクを正しく把握することが、人生の後半生ではますます重要になります。
若い頃は大きなリスクも取れました。時間という資源がたくさんあったからです。軌道修正やリカバリーの自由度を保証してくれるのが、時間という資源です。この資源は、後半生において最も希少になるものです。
「若い頃のようにはいかない」
「なぜなら、人生に残された時間は限られているから」
その自明の理を素直に受け入れ、リスクを伴う選択には冷静に臨むべきです。
その際、私に具体的なヒントを与えてくれたのも、やはり経営学でした。
かつてMBAで学んだ「意思決定の科学」です。
これは、「期待値/リスク」をベースにしながら、ディシジョン・ツリーという手法で「より望ましい意思決定の方法」を教える科目でした。では、「早期退職して事業を始めるケース」を、ディシジョン・ツリーを用いながら説明します。自分の事として想像しながら読み進めてください。
失敗すれば元手がまるまるなくなってしまう…
このケースの主人公はあなたです。
今、早期退職をすれば、割り増しされた退職金の4000万円が入ります。その半分の2000万円を元手に独立して何か事業を始めるとします。成功の確率は五分五分、5年程度で、うまくいけば8000万円稼げて、失敗すれば元手の投資分がまるまるなくなってしまう、としましょう。
もし今後5年間の年間の生活費が400万円だとすると、5年後の金融資産の期待値は、(4000万円-2000万円)×50%+(4000万円-2000万円+8000万円)×50%-400万円×5年という計算式になります。数値は、4000万円。これが期待値、すなわち起業目標額になります。
一方、退職せずに今の会社で5年間働き続けると、年収と退職金合わせて5000万円だった場合、5年後の金融資産は、5000万円-400万円×5年=3000万円になります。図に表すと、図表1の通りです。