期待値より、リスク許容度を重視せよ
比べてみましょう。
期待値に即して意思決定するのなら、4000万対3000万ですから「早期退職して独立」という選択になります。
しかしその選択には、「もしも事業に失敗したら、5年後の金融資産はゼロ円になる」というリスクも含まれます。これは由々しき事態です。5年後、ゼロからリカバーするのはかなり難しいことでしょう。
このように考えると、後半生で重要視すべきことは、「リスク許容度」です。期待値ではなく、リスクを抑える戦略の重要性が増すわけです。要するに、投資金額を小さくして、その分、儲けも小さな形を選択すべきだということです。
たとえば、図表2のような可能性がある事業であれば、失敗しても1500万円は手元に残るわけですから、独立も視野に入ってきます。
これが、ディシジョン・ツリーの効能です。もし、早期退職をして独立を目指しているのであれば、ディシジョン・ツリーを描いて5年先の自分の状況を可視化してみてください。
自分の思考のクセを知る必要
もうひとつ大事なことがあります。
このような大きな決断をするときに重要なのが、自分の思考のクセを知ることです。
米国の作家スコット・フィッツジェラルド(1896〜1940)が、次のような言葉をエッセイに残しています。
「第一級の頭脳の持ち主であるかどうかは、同時に頭の中に二つの相反する考えをもちながら、きちんと行動できるかどうかで判別できる(The test of first-rate intelligence is the ability to hold two opposed ideas in mind at the same time and still retain the ability to function.)」
(“The Crack-Up”より/訳文は『戦略サファリ 戦略マネジメント・コンプリートガイドブック(第2版)』ヘンリー・ミンツバーグ他著/齋藤嘉則監訳/東洋経済新報社/2012年)
ここで言う「行動」とはまさしく「選択」であり、人生とは選択の連続です。
仕事もプライベートもそこに違いはありません。「今日の昼ごはんは何にしようか」といったささやかなものから、転職や辞職のような大きなものまで、己の意思決定が人生を創っていきます。
「できる限り良い選択をしたい」
誰もがそう思うのは言うまでもありません。
そこで、一旦立ち止まりましょう。良い選択をするためには、繰り返しますが、まずは自分の思考のクセを知ることです。選択の質を上げるためには、現状をありのままに理解することから始めるのが肝心です。