※本記事は吉澤準特『クリティカルシンキング入門』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。
昔話を使って「PAC思考」を理解する
PAC思考は、問題解決や意思決定のアプローチに妥当性があるかを論理的に確かめ、その実現可能性を高めるのに役立つ強力なフレームワークです。ですが、この概念を使いこなすためには、その構造をしっかりと理解する必要があります。そこで、シンプルで親しみやすい題材を使って、論理の妥当性を確かめる方法を学びましょう。
取り上げるのは、日本の有名な昔話「桃太郎」です。桃太郎は鬼ヶ島へ鬼退治に行く話ですが、最初に、「鬼ヶ島の鬼が、村々に被害を与えている」という前提に問題があるケースを解説します。続けて、「桃太郎一行(イヌ・サル・キジを含む)が力を合わせれば、鬼を倒すことができる」という仮定に問題があるケースを解説します。
なぜ桃太郎は鬼ヶ島へ鬼退治に出かけたのか
最初に取り上げるのは、前提に問題があるケースです。まず、桃太郎が鬼退治に向かう理由となった前提、鬼退治を達成するための仮定、その結果として期待する結論を確認します。
仮定:桃太郎一行が鬼を退治すれば、鬼による被害がなくなる。
結論:桃太郎一行が鬼ヶ島に向かい、鬼を退治する。
このロジックに従って行動を起こした桃太郎は、どうなったでしょう? 残念ながらうまくいきませんでした。鬼ヶ島の近隣にも襲撃中の鬼たちが点在していることを見落としていたため、鬼ヶ島で一網打尽にはできなかったのです。残存した鬼たちが新たな拠点を作り、引き続き村々を襲い続けました。
PAC思考を使って妥当な結論を導くためには、そもそも前提が正しい必要があります。桃太郎一行が鬼ヶ島へ向かったのは、そこに鬼がいるからです。鬼ヶ島の鬼を退治することで、鬼の被害はなくなるという仮定を置くことも、鬼ヶ島の鬼がその原因になっているとの前提があるからです。