2度の背伸びがキャリアを後押しした

会社のリスク管理の第一線が顧客と直に接する営業だとすれば、法務やコンプライアンスは第二線、そして監査部は第三線に当たる。監査部は、社内の取り組みの評価や不具合の指摘、改善策の提案などは行うが、自ら実行することはない。直接リスクを予防する側から結果を検証する側へと逆の立場になり、影浦さんは途方にくれた。

「前の部署にいた時に監査と意見が食い違うこともあって、正直自分がなじむイメージがまったくなかったんです。それに、当時の監査部は幅広いキャリアを積んだベテラン人材が多い部署。前に向かって走りたいのに直接は動けないこともあり、最初はもどかしい思いばかりしていました」

だが、実際に内部に入って仕事をするうち、監査へのイメージは180度変わった。さまざまな取り組みを通じて第三線の重要性に気づき、同時にメンバーが熱意を持って働いている姿にも心を打たれた。監査の本当の姿を社員や経営層に伝えたい。いつしか、そんな思いを持つようになっていったという。

異動から数年後、監査部長に就任。1年後に社長が直属の上司となり、気軽に相談するには遠い存在に。影浦さんはまたしても「背伸びして仕事をしなくては」という状態に。責任の重さを痛感しながら一生懸命働き、これが次の成長につながった。

常に一つ上の立場を意識して仕事すれば、その分成長も早くなる。影浦さんは「大事な時にいつも上の人がいなくなってしまって」と苦笑するが、キャリアアップという観点で見れば、背伸びせざるを得ない状況は大きなチャンスにもなるだろう。実際、影浦さんも2度の背伸びを糧に大きくジャンプアップしてきた。

執行役・ERM本部長として多くの組織を見渡す立場になった今、「キャリアを培っていく中で起こったことすべてが糧になった」と実感している。思い返すのは、昔、背伸びをしていた頃に上司に言われた言葉だ。「組織の長なら業務ではなく人をマネジメントすべき、いかにして気持ちよく動いてもらうかを考えなさい──。」

「楽しかったこともつらかったことも、振り返ればすべて無駄ではありませんでした。仕事の根本は、結局は今やるべきことを真摯にこなし、責任を果たすことに尽きるのではないでしょうか。孤独を感じている時も、見てくれている人は必ずいます。皆さんにも、何事も転機と捉えて前向きに歩んでいただければと思います」

■役員の素顔に迫るQ&A

Q 好きな言葉
為せば成る
「困難にあってもあきらめない気持ちが大事。結果がどうあれ、やり抜くことで得られるものもあると思っています」

撮影=小林久井

Q 愛読書
ローマ人の物語』塩野七生

Q 趣味
パンダの観察やグッズ収集、観劇

Q Favorite item
スケジュール帳
入社した1994年からずっと、会社で年1回配布されるスケジュール帳。見た目は地味ですが、愛着があってなかなかほかの手帳に変えられません(笑)

(文=辻村洋子)
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