株主総会準備での失敗

キャリアの中では、働きがいだけでなく人間関係に悩んで退職を考えたことも。感情の起伏が激しい直属の上司に疲弊した影浦さんはプチうつ状態にまで追い込まれたこともあったが、退職を決心する前に当の上司が異動になり、徐々にまた前を向いて行けたという。

この2つの困難を乗り越えた後、影浦さんはめきめきと頭角を現していく。会社法の改正に伴う法令対応では、頼りの同僚が育休に入る中、プロジェクトを引っ張って難しい仕事をやり遂げた。上司が他業務との兼ね合いで手が回らなくなった時は、チームのまとめ役として力を発揮した。

「直属の上司が異動になった当時、私はまだ管理職手前の主任でしたが、間が抜けたことで組織上の直属上司は役員に。以前のように気軽に相談できなくなってしまいました。それでも目の前の仕事はやり抜くしかない。それならば自分の立場より少し目線を上げて、背伸びして仕事をしようと覚悟を決めました。大変ではありましたが、この時期が一番の成長期だったと思います」

影浦 智子さん
写真提供=オリックス

背伸びしながらがむしゃらに働き、それによって自信をつけていった影浦さん。だが、その過程では大きな失敗もした。会社の事業内容の多角化に伴って、株主総会に向けて弁護士と相談しながら会社の定款変更を提案したところ、投資家の理解を得られなかったのだ。

変更案は、「多角化を進めている会社が、さまざまな分野に進出しやすくなるように」という思いから作成したものだった。文言自体も他社事例を参考にしたものだったが、投資家から見れば進出しやすさは予想外の事業拡大と表裏一体。影浦さんは「ステークホルダーの目にどう映るか、客観的な目線が欠けていた」と大いに反省したという。

「それからは、どれだけ慣れていて自信のある仕事でも『本当にこれで大丈夫か』と一歩引いて見つめ直すようになりました。私の仕事は自分のためではなく、会社や相手方のためにあるもの。その根本を見失ってはいけないと、今も自分に言い聞かせています」

失敗を糧にして一つ成長したかいもあり、翌年には管理職に昇進。会社法務チーム長、次にコンプライアンスチーム長として組織マネジメントの経験を積んだ。「相手の話に耳を傾ける」を信条にリーダーを務め、裁量が広がったことでやりがいも大きくなっていった。

ところが、このまま順調にキャリアアップしていけると思っていたある日。突然、まったく経験のない監査部への異動辞令が下りる。