Jフロントのビジネスモデルが称賛されている
その一方で同じ百貨店4強の一角であるJ・フロントリテイリングのビジネスモデルを礼賛する声が上がり始めています。百貨店事業の売上が全体の92%を占める三越伊勢丹と違ってJ・フロントリテイリングの連結事業では百貨店事業は55%に過ぎません。
J・フロントリテイリングはそれ以外にテナントビジネスであるパルコや不動産事業、クレジット金融の比率が高いのです。そして売上高営業利益率でみれば不動産事業の利益率が38%、クレジット金融が18%、パルコが10%とそれぞれの収益率が百貨店事業の7%よりも高いことがわかります(注:この比較で百貨店事業の利益率が黒字なのは9月発売の『会社四季報』が3月の連結決算時の数字のため)。
百貨店事業に集中した三越伊勢丹を新型コロナが直撃する一方で、事業モデルを多角化したJフロントの方が体質的に危機を乗り越えやすいという論理です。実際、上期の営業利益に相当する事業利益ではJフロントは2.5億円と4強の中で唯一黒字をたたき出しています(注:JフロントはIFRS、それ以外の3社は日本基準の決算で、Jフロントの事業利益が他3社の営業利益に相当する)。
イオンは小売事業で利益を稼いでいない
「不況期に多角化部門が企業を下支えしてくれるから多角化がいいのだ」という理屈はわからないことはないのですが、私はその方向性には疑問を持っています。
その最大の理由は小売業界最大手であるイオンの事業構造です。イオンは大規模スーパーであるGMS事業がだいたい全体の3分の1、中小規模のスーパーマーケット事業が3分の1強、それ以外の不動産や金融事業が3分の1弱という事業構造になっています。
そのイオンの事業別の利益率を見るとGMS事業が0%、スーパーマーケット事業が1%とまったく利益につながっていません。イオンで利益を稼いでいるのはイオンモールの不動産事業、WAONやクレジットなどの金融事業、そして施設の管理などのサービス事業の3本柱なのです。
イオンの決算を見ていると将来性は脱小売にあると思えて仕方ありません。小売比率が低い小売業の方が将来性があるというのは、パラドックス以外の何ものでもありません。
じつはそのさらに先を行く事例があります。アメリカ最大の小売業であるウォルマートの業績が新型コロナの影響下にもかかわらず絶好調なのですが、そのウォルマートが打ち出している注力の3本柱は金融事業、広告事業、ヘルスケア事業なのです。つまり日米ともに小売業最大手は小売で儲けることに関心がない。ないしは関心があっても小売の優先順位が低くなる戦略に注力しているのです。