最大の課題は、富裕層向けビジネスモデルの確立だ

一方で投資家が百貨店4強への投資に関心を持った最大の理由は、小売領域の中でインバウンドと富裕層が成長市場だからです。言い換えると三越伊勢丹型のビジネスモデルの未来に関心をもった投資家にとっては、三越伊勢丹が利益を出してくれなければ百貨店に投資する意味がなくなってしまうのです。

そして百貨店4強にとっての最大の課題は、コロナではなく富裕層のニーズにあったビジネスモデルの確立です。ここはまだ途上で、どの企業も自信を持てるレベルには到達できていません。

そもそも何をもって富裕層と呼ぶのかは諸説あるのですが、グローバルには資産100万ドル(約1億1000万円)がひとつのラインで、日本では272万人、中国では440万人がその定義にあてはまるといわれています。そして中国の富裕層は人数が年々増加するとともに年齢層は比較的若く、日本の富裕層は人数はそれほど増えておらず高齢者が多いという違いがあります。

日本の富裕層の典型的なイメージをふたつ挙げると、ひとつは東京都港区で生まれ育ったもともとの富裕層です。親が企業オーナーで自分もその企業を継ぎ、不動産収入もあってお金に困ることは基本的にない。これがステレオタイプのひとつの例です。

もうひとつが70年代に総合商社に入社して数年前にリタイアして現在は企業年金で暮らす層です。生涯給与は累計で4億円超。住宅ローンはすでに払い終え、場合によっては都心のタワーマンションに住み替えが済んでいる。公的年金と企業年金の合計で月45万円の年金がはいってくるうえに、株などの金融資産が1億円を超えている。いわゆる成功したサラリーマンの勝ち逃げ組です。

貧困、平均、富裕層のシールが貼られた金貨が入った小瓶
写真=iStock.com/takasuu
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富裕層の心をつかんでいるのは「外商とデパ地下」だけ

そうした富裕層はどちらも百貨店での買い物を好みます。ただ話を聞いてみると、彼らのニーズに合致したサービスを提供してくれているのは外商とデパ地下だけのようです。なぜなら「買い物で失敗することで煩わされたくない」というのが最大のニーだからです。

たとえば羽毛布団を買ったけれどもなぜか寒いとか、甘い柿だと思って買ったけれどもそれほど甘くないとか。そういった体験をなるべく避けたいと考えています。

「だったらちゃんと調べて買えばいいじゃないか」とわれわれは思うわけですが、彼らのニーズはちゃんと調べなくてもちゃんとしたものが買えることにあります。ここが中流層との違いです。

65インチの大画面テレビに買い替えるときに、昨年時点だと「有機ELの方が画質がいい」けれども、「4Kチューナーがまだついていないモデルがある」みたいなことをわたしたちは「価格.com」などで調べます。それに対して、富裕層は目利きのひとにただ一言「買い替えは2020年まで待ったほうがいい」と教えてほしいわけです。

このニーズに一番応えられているのがデパ地下です。野菜も肉も総菜も和菓子などの引き出物もそこで買えばまず間違いがない。三越伊勢丹でもデパ地下の売上が一番減り方が少ないのです。