危機の時には支援に来たわけでもないのに、自社のことばかり考える人間が必ず出てくるんですよ。

そこで原則を決めて伝えました。

1.金型は会社の財産だから渡せない。たとえ、代替生産のため、一時的に金型を他社へ移すことはあっても、復旧後には生産と一緒に戻すことが前提。
2.復旧した後の生産の順番はすべての客先に公平に行き渡る順番で生産する。

僕らはトヨタの部品だけを作るために復旧に来たんじゃない。ラインを復旧させた後はどこの会社にも平等にやったわけです。

このふたつの原則は今もちゃんとあります。危機の際の原則は現場で体験したことから生まれてくるんですね。

ただ、その時、気づいたことがあります。部品倉庫のなかには他社の在庫は結構、残っていました。金型を持って行かなくたって、1カ月くらいは何とかなる量でした。

一方、トヨタはリーンな体制でやっているから、倉庫には在庫はほとんどなかった。いちばん、部品が欲しいのは僕らなんですよ。

だから僕らは必死になって協力会社の生産ラインを復旧させるわけです。そうしないと部品が止まってしまう。

崩落寸前の倉庫に足を踏み入れることに

10日ほどしたら、いよいよ部品の在庫がなくなってきて、倉庫のなかへ金型を取りに行かなきゃならなくなった。だが、工場長が立ち入り禁止にしているから、無断で入って取ってくるわけにいかない。

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でも、倉庫の床を直すまでは待てない。だいたい、災害の後はどこも建物が壊れているから、大工さんを呼んでも来ない。

上司の林南八さんと相談したら、「友山、床は抜けそうだけど、体の軽い奴なら何とかなるんじゃないか」と、なぜか僕をじっと見るんですよ。確かに、ひとりが入る分には大丈夫じゃないかと思えたんです。

すると、南八さんは工場長に呼びかけたんです。

「工場長、型を取りに行こう」

工場長は首を振って、「ダメです。絶対、だめです。危ないからやめてください」……。

しかし、南八さんはあきらめない。

「工場長、わかった。おたくの人間にケガはさせられない。うちの人間に体の軽いのがいるから、そいつを行かせます。体に縄をつけて入らせればいい。何かあったら、みんなで引っ張ります」