「え? オレが入るの?」
そういいながら、南八さんはまた僕の方を見る。
僕はもう、言葉もないですよ。
「え、オレ? オレが縄を巻いて入るの?」
南八さんを見たら、視線を合わせてくる。
横にいた工場長がさすがに「待ってください」と言いました。
「いや、トヨタさんにそこまでさせるわけにいきません。私が全責任を持ってうちの社員を行かせます」
そうして、縄は付けずに、まずひとりが、そろそろと入っていった。
何ともないわけです。無事、金型を取ってきた。
次はふたりが入った。見た目より床は丈夫で、崩落しなかった。それからはもうみんなでダーッと入っていって金型をバケツリレーで全部取ってきた。
いやあ、あの時は肝を冷やしました。(つづく)
※この連載は『トヨタの危機管理』(プレジデント社)として2020年12月21日に刊行予定です。