「え? オレが入るの?」

そういいながら、南八さんはまた僕の方を見る。

僕はもう、言葉もないですよ。

「え、オレ? オレが縄を巻いて入るの?」

南八さんを見たら、視線を合わせてくる。

横にいた工場長がさすがに「待ってください」と言いました。

「いや、トヨタさんにそこまでさせるわけにいきません。私が全責任を持ってうちの社員を行かせます」

そうして、縄は付けずに、まずひとりが、そろそろと入っていった。

何ともないわけです。無事、金型を取ってきた。

次はふたりが入った。見た目より床は丈夫で、崩落しなかった。それからはもうみんなでダーッと入っていって金型をバケツリレーで全部取ってきた。

いやあ、あの時は肝を冷やしました。(つづく)

※この連載は『トヨタの危機管理』(プレジデント社)として2020年12月21日に刊行予定です。

【関連記事】
会議で重箱の隅つつく「めんどくさい人」を一発で黙らせる天才的な質問
夜の繁華街に行きたい従業員を、トヨタの「危機管理人」はどう説得したのか
野村克也氏「巨人・原監督の采配はここがダメ」
「外食代の節約10年で755万円」1億円貯めた女性が毎日食べているもの
三菱自、ANA……「大企業出身者」ほど転職市場で辛酸をなめる理由5