欧州勢ミタルの低炭素投資は年間1700億円と巨額

日本勢の窮状を尻目に欧州の鉄鋼業ではCO2排出削減の取り組みを加速させている。

欧州勢は水素を使った製鉄法の実用化にも力を入れる。石炭の代わりに水素で鉄鉱石を還元すればCO2は実質ゼロにできる。

主流の石炭を使わない製鉄技術の確立を目指し、欧州アルセロール・ミタルは天然ガスや水素を使う技術に最大400億ユーロ(約5兆円)を投じる。独ティッセン・クルップも水素還元方式に参入する。

ミタルが新設するのは一般的な製鉄法で使う「高炉」に代わるプラントだ。天然ガスを使って鉄鉱石(酸化鉄)を還元し鉄をつくるもので「DRI(直接還元鉄)」と呼ばれる。

高炉はコークスなど石炭由来の原料で還元し、その工程で大量のCO2が出るが、DRIは製鉄工程のCO2排出量を現行に比べ2~4割減らせるメリットがある。

ミタルはCO2回収技術などと組み合わせ2030年に、CO2排出量の3割削減を目指す。同社が2050年までに計画するDRI関連設備の新設など低炭素投資は1年あたり約1700億円にも上る。同社の2019年の設備投資の4割強を占める額だ。

日本の鉄鋼業界の「CO2排出ゼロ目標」は半世紀遅れ

ティッセンも高炉の置き換えでDRIを新設する。

今年8月末に、ドイツ西部にある主力のデュースブルク製鉄所で鉄の半製品をつくる工程を刷新すると発表している。水素還元方式の鉄鋼生産プラントの建設に着手し、2025年までに工場の主要部分を完成させる計画で、それに向けてまず年産40万トンで始め、2030年に同300万トンに引き上げる。

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ミタルも独北部ハンブルクで水素を使った実証プラントを2021年から稼働する。CO2の回収技術などを総合的に組み合わせ、2050年までに全世界でCO2排出を実質的にゼロにする目標を示している。

一方、日本の鉄鋼業界が掲げるCO2排出のゼロ目標の時期は「2100年」。世界とは半世紀も遅れる。

日本では大量生産に向く高炉一貫製鉄所で先行したことなどからDRIは定着しなかった。日本国内で生産量の8割を高炉が占め、鉄スクラップの蓄積が少ない新興国でも高炉が普及する。小型で電極を使って鉄スクラップを溶かす電炉は高炉に比べ電気料金やスクラップの調達などコストがかかることも高炉が長く続いた理由だ。