自動車メーカーが高品質を求めるため、電炉は敬遠されたが…

さらにトヨタ自動車など高品質の鋼板を要求する日本の自動車メーカーにとって、品質が安定しない電炉は敬遠された。しかし、電炉は1回あたりの製造時に排出されるCO2が高炉の半分で、高炉のコークス炉のような大型の付帯設備が不要だ。日本製鉄は当面は電炉技術の向上を目指し、高炉からの置き換えで難局を乗り切る考えだ。

自動車製造の自動化工場の組立ラインでの産業用溶接ロボット。
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JFEスチールも2021年度までに国内全製鉄所で環境負荷の少ない新型設備を導入し、鉄の成分調整にリサイクル原料の鉄スクラップを多く使用できるようにする。

2030年度までに環境分野に1000億円超を投資し、CO2排出量を2割以上減らす。製鉄所の中核設備の一つである「転炉」を一新、エネルギー効率の高い最新型に転換して原料として鉄スクラップを多く利用できるようにする。

これにより石炭を使用して製造する鉄鉱石由来の鉄の割合を減らすことができ、CO2排出を抑制することができる。

だが、この程度の対応策では脱炭素に向かう欧州勢にはとても及ばない。

「国として水素戦略を強化できない限り厳しい状況は続く」

日本勢もCO2削減に最も効果的とされる「水素還元法」による新たな技術を導入したいのはやまやまだ。ところが、「安価で大量の水素供給が(可能となる環境が)整わない限り、水素還元製鉄は実現できない」(橋本英二日本製鉄社長)という。

欧州ではすでに風力発電が普及しており、その風力発電で生じる安価な電気を使って水素を製造する計画が各所で動き始めている。

これに対して日本では、「民間だけでなく水素戦略を国としてもっと強化できない限り厳しい状況は続く」(大手証券アナリスト)というのが現状。

さらに日本勢にとってやっかいなのが世界最大の鉄鋼生産国、中国の存在だ。

中国勢は環境対策としては電炉への転換を軸に据える。国全体の生産量に占める電炉比率は1割弱から2割前後に高まるとみられる。

宝武鋼鉄集団を中心に国有企業の再編が進み、宝武は2020年にミタルを抜き粗鋼生産量で世界トップになる見通しだ。

これにより1社あたりの投資余力が高まり、電炉技術で主導権を握る可能性がある。