中国勢に海外市場を抑えられてしまっては生き残れない

高炉が主体の日本はこれまで、高炉から出るガスの回収などの省エネ技術で先行してきた自負がある。製鉄所のエネルギー効率は欧米などより優れ、インドなど新興国での環境技術の導入も支援してきた。

しかし、電炉で出遅れれば「技術輸出などで中国に先を越されてしまう。国内市場が伸びない中で投資余力がある中国勢に海外市場を抑えられてしまっては生き残れない」(大手証券アナリスト)というのが実情だ。

豪英資源大手のBHPグループは11月9日、中国勢の台頭をにらんで、製鉄時に出る温室効果ガスの排出削減に向けた技術開発で、宝武鋼鉄集団と覚書を結んだ。BHPが今後5年間で3500万ドル(約36億円)を投じる。

BHPの競合、英豪資源大手のリオ・ティントも2019年に低炭素技術の開発で宝武との協力を決めている。

環境問題への対応を避けてきた「ツケ」が回ってきた

本来なら、日本勢は得意の環境技術を、市況の撹乱要因となる中国製の安価な製品の流入を締め出す手だてにしたいところだ。しかし、EUは中国製品を念頭に炭素税の導入を探っている。それだけに「中国勢が欧米各社と手を組んで環境技術でも先行するようだと日本にとっては致命的だ」(JFEホールディングス幹部)との声も上がる。

長年、経団連の主要ポストに居たこともあって環境問題への対応を避けてきたことの「ツケ」が回ってきた日本の鉄鋼業界。

MSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル社)によると、日本製鉄の約2倍の鉄を生産する欧州大手アルセロール・ミタルの2018年度CO2排出量は1億8803万トンと日鉄(同9700万トン)の約2倍に相当する。

それでも、「国を巻き込んで挽回すれば、まだ勝機はある」(大手証券アナリスト)。目先の利益にとらわれずに、環境問題をクリアするための開発投資やイノベーションを引き出せるか。菅首相の所信表明を「死刑宣告」にしないためには、日本の製鉄業界の底力が試されている。

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