サムスン創業者「妻と子供以外はすべて変えよう」
2014年にイ・ゴンヒ氏が心筋梗塞で倒れた後、実質的に同社トップにあるイ・ジェヨン氏はこれまでの業績拡大に重要な役割を果たした。問題は、世界の半導体業界が大きく変わる中で、同氏が強いリーダーシップを発揮できるかだ。その点に関してゴンヒ氏が亡くなった影響は軽視できない。
1993年、ゴンヒ氏がサムスン電子の幹部に「妻と子供以外はすべて変えよう」と檄を飛ばしたのは有名だ。創業家出身であるゴンヒ氏にとって、常に高い成長を実現しなければ生き残ることができないとの危機感は強かった。
ゴンヒ氏の強烈なリーダーシップによってサムスン電子はわが国の半導体技術を用いてシェアを高めた。また、ゴンヒ氏は無労組経営を貫いた。それは、組織を1つにまとめ、個人の集中力を最大限に本業に向かわせるためだった。
しかし、2019年11月、サムスン電子には、はじめて本格的な労働組合が結成された。それが示唆することは、ゴンヒ氏が経営の第一線から遠ざかった結果、サムスン電子の組織風土にほころびが生じ始めたことだ。
韓国の財閥系企業では世代交代を境に分裂したケースも
リーダーシップ発揮に加えて、ゴンヒ氏の相続の負担も軽視できない。サムスングループでは傘下企業の相互出資によって、創業家の影響力が保たれてきた。相続税支払いのためにジェヨン氏は保有する株を売却し、創業家のもつサムスン電子への影響力が低下する可能性がある。そうなれば、組織を束ねるリーダーシップが低下し、過去から受け継がれてきたハードな仕事ぶりなどへの従業員の不満などが高まる可能性がある。
仮に、相続税の負担が要因となってサムスン電子の経営体制に変化が生じれば、同社が半導体産業をはじめとする世界経済の環境変化に対応することは、従来よりも難しくなる恐れがある。過去、韓国の財閥系企業では、世代交代を境にグループが分裂したケースがある。
今すぐにサムスン電子の経営が不安定化することはないだろうが、同社が中長期的な観点で経営者人材を確保し、世界経済の環境変化にしっかりと対応する体制を整えることの重要性は一段と高まっている。それは今後の韓国経済にも無視できない影響を与える。