創業者を失ったサムスンの今後の道のりは平坦でない
2020年7~9月期の韓国最大手サムスン電子の売り上げは、前年同期比で8%増加し、四半期ベースでの過去最高を更新した。家電、スマートフォン(スマホ)、半導体(自社製品の製造と半導体受託製造〈ファウンドリ〉)のいずれも増収だった。事業ポートフォリオ全体で収益を確保できているサムスン電子の現在の状況はバランスが良いといえる。
ただし、今後の展開についてはやや不透明な点もある。世界の半導体産業では設計・開発と生産の分業体制が進んでいる。その変化にサムスン電子がどう対応するかが問われる。
米国では生産を自社で行うか否かの戦略が、半導体大手の競争力の明暗を分け始めた。生産を外部に委託するAMD(アドバンスト・マイクロ・デバイセズ)は業績が拡大している。その一方、これまで世界の半導体産業をリードしたインテルは業績が伸び悩んでいる。
そうした変化への対応を考えた時、サムスン電子の“中興の祖”である李健煕(イ・ゴンヒ)氏が亡くなった影響は小さくない。ゴンヒ氏は強烈なリーダーシップで、常に成長を目指す組織を作り上げた。
また、同氏の相続税は1兆円を超える。納税のために、同社トップである長男の李在鎔(イ・ジェヨン)氏が保有する株を売却し、サムスン電子の経営に何らかの揺らぎが生じる展開は否定できない。現在の業績は良好なサムスン電子だが、今後、同社を取り巻く環境の変化を考えると、同社の歩む道は決して平坦ではないだろう。
韓国経済を回復させたサムスンの業績拡大
現在、サムスン電子の業績は良い。新型コロナウイルスの感染発生によって世界経済のDX(デジタルトランスフォーメーション)が加速化していることや、ファーウェイの半導体調達が閉ざされたことなどが業績拡大を支えた。
家電部門では、自宅で過ごす人の増加によって価格帯の高いテレビなどの販売が増加した。スマホ事業では4~6月期に感染拡大によって押し下げられた需要が回復したこと(ペントアップディマンド)や、米国の制裁の影響からファーウェイのシェアが低下したこと、オンライン販売の強化によるマーケティング費用の減少などが収益に貢献した。9月15日のファーウェイ制裁発動を控え、5G通信機器の販売も増加した。
半導体事業では、ファーウェイからの駆け込み需要が収益を支えた。さらに、自宅で過ごす時間が長くなっていることやDXが追い風となり、スマホやゲーム機向けのNAND型フラッシュメモリやSSDの需要増加も収益にプラスだった。また、同社が成長事業として重視しているファウンドリ事業は、スマホ向けの半導体製造需要を取り込んで収益が増加した。
韓国最大の企業であるサムスン電子の業績拡大は、同国経済の持ち直しに大きく影響している。例えば、航空業界への影響がある。世界的に新型コロナウイルスの影響によって航空旅客需要は大きく落ち込んでいる。その中で、大韓航空は旅客機を貨物機に転用し、貨物収入の獲得に取り組んだ。
航空貨物の場合、スピードが速いが、輸送量の点では鉄道やタンカーには及ばない。その点で、サムスン電子が手掛けるスマートフォンや半導体は、製品が大きくなく、重量も軽い上に高付加価値型の製品だ。7~9月期、大韓航空はそうした品目の物流を担うことによって、営業黒字を獲得した。
サムスン電子は世界的な5G通信の普及やデジタル化の進行が中長期的な半導体需要を増加させると考え、設備投資を積み増す。世界的にIT関連の投資が増加基調にあることを考えると、目先、サムスン電子の業績は拡大基調で推移する可能性がある。