重大な変革期迎える世界の半導体産業
現在、世界の半導体産業では急速な構造変化が進んでいる。半導体産業が、設計・開発の知識集約的な事業に特化する分野と、資本集約的な製造に担当する分野の分業体制が進んでいる。その方がより効率的に事業を運営できるからだ。
米国ではアドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)などが知識集約的なビジネスモデルを目指して半導体の設計と開発に注力している。そうした企業は世界最大の半導体受託製造企業である台湾のTSMCなどに製造を委託している。なぜAMDなどが、ソフトウエアの開発に注力しているかといえば、半導体の設計・開発に求められる能力は、微細な半導体の生産ラインの確立に必要な能力と異なるからだ。
それは、パソコンに搭載されているCPU(中央演算装置)の設計・開発・生産を同時に進めた米インテルが、自社内でのより高度な生産技術の確立につまずいたことが示している。半導体の設計・開発と生産は、言ってみれば、“水と油”のような関係に例えることができるだろう。
これからの事業モデルは何が正解か
ファウンドリ業界において、TSMCは世界の受託製造シェアの50%超を確保している。TSMCはスマートフォンからデータセンタ向けのメモリ、さらには米国の最新鋭ステルス戦闘機である“F35”などに用いられる軍用の半導体まで、幅広い半導体の製造を手掛けている。
言い換えれば、TSMCには多様な顧客の複雑な生産ニーズに柔軟かつ迅速に応える懐の深さがある。中国では共産党政権の支援を取り付けてSMICが製造能力の向上に取り組んでいる。米国はファーウェイに加えてSMICにも制裁を科し、米中の対立は激化している。
現在、サムスン電子は自社ブランドでの半導体設計から生産までを行う総合型半導体企業としてのビジネスモデルにこだわっている。サムスン電子は、DRAM、NAND型フラッシュメモリやSSD、さらにはスマホ向けのICチップなど幅広いラインナップを誇る。しかし、需要は常に一定ではない。設備投資が収益増大に寄与するか否かは不確実だ。
それに対して、決算資料を見る限りファウンドリ事業の収益は増大基調にある。TSMCの設備投資増強とあわせて考えると、サムスン電子にとって、顧客との良好な関係を構築できれば相対的に安定した需要が見込めるファウンドリ事業の重要性は高まるだろう。環境の変化に経営陣がどう対応するかが問われる。