武蔵野ビール工場で製造工程も見学。「3年連続最高金賞」ビールのこだわりを熱心に聞いていた。

ビール事業黒字化、および3位浮上を牽引した商品だが、それだけではない。日本に高級ビールというジャンルを、短期間につくりあげたのだ。確定はしていないが、ライバルのヱビスを、プレモルが抜く公算も高い。

三桝家は「料理が自慢」(菅原専務)の宿である。しかし、ビールが弱いと、せっかくの料理も台無しになってしまう面はある。

ビールは原料を仕入れ、工場で生産されて、営業が橋渡し役となり、旅館や飲食店、スーパーなどに供給される。そして、お客がビールを飲む。ビールという商品にはメーカーの“思い”が込められている。が、すべての工程に思いが伝わらなければお客はきっと感動しない。伝えて、つなげていくのが、ビールビジネスの基本だろう。

森山は、樽を導入したばかりの三桝家をフォローするため、定期的に訪問する。

営業では、売る前よりも売った後が、本当は大切だ。営業マンという人間が試される。ビールの状態、ホースの汚れ、機械やコップなどをチェックして、アドバイスを繰り返す。同時に、評判を聞いて、さまざまな営業提案に生かしていく。

湯河原・箱根地域は、サントリーのビールシェアは全国平均より大幅に低いそうだ。ラグビーに例えるなら陣地がとれていない戦況だろう。早く、敵陣に行かなければならない。それだけに、工場ツアーのような斬新な企画と同時に、営業マンには豊富な運動量も求められていく。

「私がやっている以上、劣勢を挽回して、いずれはトップを目指します」

一方、今期の黒字化と3位浮上については、次のように話す。

「これで終わりじゃないんですよ。黒字化をゴールだと考えて安心したなら、負けます。あくまでも通過点。これからが、本番なんです。面白い展開になってきました」(文中敬称略)

(永井 浩=撮影)