2008年、ビール事業の黒字化とシェア3位浮上が確実視されるサントリー。その原動力となった全国の営業マンの成功事例から、温泉街を舞台に悲願の大逆転へと驀進する、ある男を追った。
「プレモル」武器に悲願成就へ突き進む
「それほどすごい人だなんて、知らなかったんですよ、最初は。自分からは、何もおっしゃらないし。ユーミンのあの歌は、聴いたことあります。有名ですよね。
プレモル(ザ・プレミアム・モルツ)ですか? お客様の評判はいいですよ。工場を見学させていただいたのが、扱うきっかけでした。とにかく熱心ですよ。森山さんは」
神奈川県の湯河原温泉にある「味樂亭三桝家」は、気品に溢れる温泉宿だ。昭和の巨人、安岡正篤も定宿にしていて、可愛がっていた大平正芳元首相からの電話を頻繁に受けていたそうだ。時に優しく、時に厳しく。そうした刻まれた歴史が、ある種の風格を館内に漂わせている。
さて、冒頭の言葉は三桝家の若女将、菅原有香が、サントリーの営業マン、森山敬太について語ったもの。
森山の肩書は、横浜支店部長代理。現在42歳の働き盛りだ。後述するが、1988年に入社してから10年間、彼はラガーマンだった。サントリーのラグビーチーム「サンゴリアス」で、スタンドオフ(SO)として活躍したのだ。
一大繁華街である横浜をメーンにウイスキーなども含めた新規開拓営業に従事していたが、2008年9月から、観光地である湯河原、箱根の営業も担当することになった。森山は言う。
「ザ・プレミアム・モルツは、すごい武器なんですよ。この商品があるから、私たちは自信を持って切り込める。仮に、キリンビールの営業がプレモルを持っていたなら、大変なことになっていたはず。ワンサイドのゲームのように」
サントリーのビール事業は今年、参入以来初めて黒字化する見通しになっている(営業黒字額で10億円程度)。さらに、やはり事業開始以来初めて、大手4社で最下位脱出が有力視されているのだ。