一時停止も新型コロナの直接的な影響ではなかった
【藤本】これらの工場のほとんどは、新型コロナウイルスの感染拡大の直接的な影響で動かせなかったのではなく、販売や部品供給が滞ったので動かさなかったのです。販売や部品供給が戻り始め、夏までにはコロナ前の水準に戻せたわけです。
また4月ごろには、数千人規模の国内自動車工場で、別々の職場で1人ずつ、計3人の感染者が出たので、全工場を1週間閉鎖して消毒と再発防止対策を行いました。感染発生は残念でしたが、当時の状況を総合的に考えれば、近隣住民を考慮した一時閉鎖は賢明な判断であったと言えるでしょう。
いずれにせよ、仮に世界の自動車市場の今年の落ち込みが2割として、日本の自動車企業や自動車産業の減少幅がそれ以下だとするなら、日本勢の世界シェアは上昇したことになります。まさにピンチの中にも長期的に見ればチャンスあり、でしょう。
日本工場のウイルス防御能力は、海外に比べて高い
——9月16日に発表された8月の貿易統計(速報値)をみて驚きました。半導体等製造装置(数量ベース)が対前年で64.9%増、半導体等電子部品(同)が2.9%増と伸びています。自動車は乗用車が18.7%減ですが、7月に比べ12ポイント以上改善しました。競争力のある工業製品はコロナ禍でも日本からの輸出が好調のようです。コロナ禍の震源地だった中国が皮肉にもいち早く回復しつつあるのか、中国向け輸出も増えています。
【藤本】先ほどお話しした、フル稼働の国内工場の場合もそうですが、いろいろな実例や実績データを見る限り、日本の工場のウイルスに対する防御能力は、海外の工場や企業に比べて、相対的に高い傾向があるとみてよさそうです。感染症対策の優等生とも言えるドイツでさえも、一部の工場で大規模なクラスターが発生していましたが、日本ではあまりみられない。このことからも、そう推測できます。
日本の優良国内工場の感染防御能力の水準については、今後、しっかり検証する必要はありますが、最近われわれが実施した質問票調査の一部を見ると、仮に、その工場が実施してきた感染防止対策が十数項目あるとするなら、そのなかの半分ぐらいは、今年に入って新たに始めた対策だが、残りの半分は、すでに新型コロナ感染症拡大の前から、長年取り組んできた衛生対策や清掃・清潔対策であり、それを強化しただけだとの答えが返ってきます。
これに対して、同じ会社の海外工場では、今回新たに導入した対策が多くなっています。つまり、感染防止対策に関しても、国内工場は実力も経験値も高く、これを海外の工場に知識移転している可能性が高いのです。