日本の工場には「コスト高でも、ちゃんと動く」という定評がある

【藤本】たとえば、日本に強い国内工場が残っている半導体製造装置や高機能電子部品などの工場の場合、コロナ禍でも、海外大口顧客を含め、新たな仕事が来ている、あるいは取ってきているようです。多くの国はコロナ禍で前年比20~30%ほど経済活動が落ち込んでいるとみられていますが、中国はすでに次の設備投資に向けて準備に入っている可能性があります。

今後、デジタルトランスフォーメーションやサイバーフィジカルシステム関連で需要拡大が期待できる5GやAIなどの用途では、機器や専用半導体の需要増が見込まれます。そうなると、その生産を受託するアジアのODM(委託者のブランドで製品を設計・生産する)企業などは、生産能力増を見越して、デジタル機器や半導体関連の生産設備の発注を、この緊急時においても納期や生産量の信頼性の高い日本の優良工場に発注してくる可能性は期待できるでしょう。

自動車工場における溶接ロボットの動き
写真=iStock.com/WangAnQi
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このように、輸出が好調なのは一つには日本の工場が、コストはやや高いとしても、災害時、緊急時に強く、コロナ禍でもちゃんと動いているという定評が、海外でも定着しつつあるからかもしれません。日本の一部の国内優良工場が、コロナ禍においてむしろ新しい仕事を獲得しているというのは注目すべきことです。

重要なのは新たな仕事を営業担当者が取ってきたときに、コロナ禍でも約束通り作れると工場長が確信をもって言えるかどうかです。大震災のような「見える国内災害」でも、パンデミックのような「見えないグローバル災害」でも、①被災工場を早期に復旧し②必要なら迅速に代替生産に切り替え③感染防止をやり抜き④その上で競争力を維持する、日頃から培ったものづくり現場のこの4つの組織能力の強さがあればこそ、「作れる」と言えるのです。

「日本のものづくりは衰退してしまう」という見方は間違い

——もしもコロナ禍でも新たな仕事を取ってきているとすれば、世界的なシェアを伸ばしているということですね。

【藤本】そうだと思います。このような状況下で輸出を増やしている製品のシェアはむろん増えているはずです。生産が10%落ちている工場でも、世界市場が20%落ちているのなら、その工場の世界シェアは上がっていることになります。次の好転期に、そのシェアで伸びていけば、その工場は、より高い成長が期待できるわけです。

——日本のものづくりは競争力がなく、衰退してしまうという見方が経営者やエコノミストの一部にはあるように思いますが、少なくとも足元の実態はやや違いますねえ。

【藤本】そういった見方は、統計データばかりか現場の現実も経済理論もしっかり確かめずに、気分や雰囲気で、あるいは結論ありきで発言しているように思います。しかし、平成期の日本の製造業は、全体として、確かに成長はしていないが、そんなに衰退しているわけでもないのです。少し統計データを見ればわかることです。簡単な計算をしてみましょう。