コロナ禍でも日本の工場は動き続けている。日本のものづくり現場は、なぜこれほど頑強なのか。東京大学大学院の藤本隆宏教授は「この約30年間、日本の工場は厳しいグローバル・コスト競争に耐えてきた。だからコロナ禍のような『見えない災害』にも対応できる力がある」という——。(第2回/全3回)
東京大学大学院の藤本隆宏教授。
撮影=プレジデントオンライン編集部
東京大学大学院の藤本隆宏教授。

「中国から国内へ引き上げる」に追随すべきではない

——新型コロナウイルスの世界的な大流行が起きたことで、ものづくりのサプライチェーンを見直すべきではないかという意見があります。グローバルなサプライチェーンから国内で完結できる、いわば「地産地消」のサプライチェーンへと変えるという意見ですが、どう評価されますか。

【藤本】そのような意見は米国でもよく聞かれるものです。確かに米国は、デジタル情報産業などの開発機能をシリコンバレーなど国内で発展させる一方、その生産機能は、低賃金人口大国の中国などに大々的に移してきました。アップルのiPhoneなどのグローバル開発・生産体制を見れば、それは歴史的な事実として明らかですね。

ところが今は、その反動で、米国の一部では、中国は生産拠点として信頼できない、生産拠点を中国に移しすぎたので、今度はサプライチェーンをグローバル型からローカル型に切り替え、生産拠点を米国に戻そう、あるいはいざというときのために製品や部品の備蓄在庫を増やそう、といった論説が目立ちます。そのような見方が日本の経営者の耳にも入り、日本でも同じような対応をしたほうが良いのではないかという意見も出てくるかもしれません。

しかし、米国の産業人や企業人が、30年近く、低賃金人口大国である中国を使いまくってきた揚げ句に、「中国の生産は今や当てにならないから米国に引き上げるぞ」といった短期的な観点で、ローカル・サプライチェーンへの恒久的な撤収を主張するのは、米中摩擦の心理的影響もあるとはいえ、世界の産業進化の全体的な流れからすれば、やや表面的、短絡的なリアクションに見えます。日本の産業人は、あまり安易に追随しないほうがいいと思います。

マスクや防護服の不足は中国に原因があったが…

今回のコロナ禍で起きたマスクや防護服などの不足は中国などの海外に生産拠点を移してしまったことが一つの原因でした。確かに、災害時にこそ需要が急僧するマスクや医療関連などの「緊急財」は、危機が起きると、同じ在庫量でも在庫期間が急減し、極端な品不足に陥ります。

こうした緊急財はある程度、備蓄の必要があり、また国内に生産拠点を確保する必要があるかもしれません。国の安全保障にかかわる財も同様です。

しかしそれ以外の「一般財」までも、コロナ禍をきっかけに、国際競争力の現状を無視して一方的、不可逆的に国内生産に戻したりする必要はないと考えます。