困っている人をみかけた時、あなたならどうするか。スペイン在住のRitaさんは「日本では『人に迷惑をかけてはいけない』『自分のことは自分で解決すべき』という意識が強く、声をかけるのに躊躇してしまうが、スペインでは躊躇なく思いやりを行動で示す人が多い。他人との境界線が日本よりも曖昧なのだ」という――。

※本稿は、Rita『自由で、明るく笑って過ごす スペイン流 贅沢な暮らし』(大和出版)の一部を再編集したものです。

スペインの街でよく目にする光景

スペインで暮らしていて、よく目にする光景は、感情をさらけ出す人々の姿です。

泣きながら友人に気持ちを吐き出す人。

あるいは、子どもと一緒に歌を口ずさみ、周囲を笑顔にする親子。

そして、ストリートパフォーマンスでバイオリンが奏でられると、その場で足踏みして、踊り出す人もたくさんいます。

日本では「人前で感情をあらわにするのは恥ずかしいこと」と思われがちですが、スペインではそれが日常の一部として、自然に存在しています。

最初の頃の私は、そんな光景に圧倒されて、「こんなに感情をさらけ出して大丈夫? 恥ずかしくないの?」と、胸の奥で何度もつぶやいていました。

ところが、不思議なことに周囲の人たちは誰ひとり気にする様子がありません。

怒りに震える人の隣で本を読み続ける人もいれば、泣きながら話す人の前でイヤホンを耳にして音楽に没頭する若者もいる。

バイオリンの音色に合わせて踊り出した人を見て、「素敵ね」と微笑みながら小銭を投げ入れる通行人もたくさんいます。

みんながそれぞれの世界を持ちながら、同じ空間を自然に共有しているのです。

その光景は、まるで「人間は感情のある生き物。だから表に出すのは当然でしょ?」

と、街全体から言われているようです。

特によく見かけるのは、地下鉄やエレベーターの中で突然始まる電話の会話です。

「ママ、今何してるの?」「今日、仕事で嫌なことがあってさ……」と、まるで自宅のリビングでくつろいでいるかのような自然さで話し出す人々。

最初の頃の私は耳をそばだててしまい、「こんな個人的な話を、人前でするなんて」と戸惑いました。

「感情をさらけ出す」ことは弱さではない

そしてある日、一緒にいたスペイン人の友人に聞いてみたのです。

「こういう話って、聞かれて恥ずかしくないの?」。

すると不思議そうな顔をして、笑いながらこう答えました。

「だって、秘密じゃないでしょ? みんなにも起こることなんだから。隠す必要なんてないじゃない」。

その言葉を聞いた瞬間、まっすぐ突き抜けた気持ちになりました。

私は長い間、「弱いところを見せたら恥ずかしい」「人前では完璧でいなければならない」と思い込み、自分の感情を押し殺してきたところがあります。

泣きたいときも笑いたいときも、なるべく人に気づかれないようにして過ごす。

それが「礼儀」であり、「大人」であり、「強さ」だと信じていました。

でも、スペインでは違いました。

ここでは誰もが感情を隠さずに生きていて、それがむしろ人間らしい魅力になっている。

感情を出すことが、弱さではなく、自然体として受け入れられている。

私は思いがけない気づきに驚きながらも、不思議な安堵が広がっていきました。