「クスリの前に生活改善」で起こった驚異の変化

一方で、無事に減薬や中止ができた患者さんたちには、素晴らしいポジティブな変化が現れました。目つきがしっかりしてきて、無表情かぼんやりとしていた表情は明るく変わり、言葉も増え、驚くほど若返ったのです。

睡眠薬を服用していたころは足元がおぼつかなくて、診察室までヨロヨロと時間をかけて入ってきていたある人は、服用を中止してからはスタスタとしっかりした足取りで入ってくるようになりました。

先日も、他院で睡眠薬を長年服用していた車椅子の80代女性が、当院の治療で服用を中止してからしばらくして立ち上がれるようになり、自力で歩行ができるようになったことがありました。

さらに、来院当初は何もしゃべらずにぼんやりとしていたのが、診察室にお孫さんも連れてきてくれて、にぎやかなおしゃべりを楽しむまでに変わりました。今ではすっかり家族の中心的存在になっていると聞きました。

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睡眠薬は「効きすぎる」

無事に服用を中止できた方には、こうした劇的な変化が数多く見受けられます。

夜に服用した睡眠薬の薬効が、朝起きてからも持続してしまい、1日中うつらうつらとした状態になってしまっている人は多いのです。

睡眠薬を服用した高齢者の転倒もよく耳にします。眠気を引きずったまま生活しているので、当然ながら運動能力も低下してしまっているため、転倒しやすくなります。転倒して骨折をしてしまい、そのまま寝たきりになるケースもなかにはあります。

睡眠薬の副作用には、思考能力や意欲の低下などがありますから、長期間にわたって影響を受けることで、まるで廃人のようになってしまうことはありうること。そうした薬をいったんやめることで、悪影響を脱して状態が改善することは十分に考えられることなのです。

もちろん、本当に睡眠薬の服用が必要な症例はあります。しかし、私は、先の80代女性のように、「必ずしも必要はない」と診断したときには、食事や運動を中心とした生活習慣の実践で、少しずつ睡眠薬を減らすことから始め、徐々に卒業できるように一緒にがんばってもらいます。

時に、依存性の少ない漢方薬に切り替えることもあります。ただ「睡眠薬を止めなさい」とだけいっても、依存してしまっている患者さんには酷ですから、少しずつ切り替えられるようにほかの方法を取り入れながらアプローチすることが大切です。