タピオカの価値は行列にあった

テイクアウトのニーズが高まっているのに、なぜタピオカ店が潰れているのか。松野氏は次のように分析する。

「タピオカが若年層を中心に支持されたのは、学校帰りに友達と一緒に行列に並び、『今日はあのメニューにしよう』『トッピングは何がいいか』とおしゃべりしながら待つ時間が楽しかったからです。タピオカ店に並ぶことは、若年層にとってコミュニケーションの儀式の1つ。つまり、モノそのものより、友達と一緒に過ごすコトが魅力でした」

「若年層を中心としたタピオカブームに対して、『物珍しいだけで、べつにおいしくない』『あんなに店を出してどうするのか』と冷ややかな見方をする大人たちもいました。ただ、すぐに終わると言われ続けたわりに、駆逐されずに息の長いブームになっていた。モノとしての新鮮さがなくなっても売れ続けたのは、友達と一緒に時間を過ごす体験に若年層が価値を感じていたからです」

今回のコロナで閉店が続出したのも、タピオカがコト消費であることが大きい。

「コロナの自粛で学校が休校になったり授業がオンライン化して、友達と会う機会が減りました。会えても3密回避で、一緒に店に並んでおしゃべりすることは難しい。そうなると、タピオカの最大の魅力である体験価値は減じてしまいます。一方、コロナ禍でテイクアウトのニーズが高まっても、タピオカの価値はそもそもテイクアウトできることではないので、追い風になりにくい。マイナスの影響が強く出て、閉店につながったと考えられます」

ポストタピオカはデザートドリンク

コロナ禍でタピオカブームはひと段落した。では、タピオカを楽しんでいた層はこれからどこに向かうのか。松野氏が注目しているのは、デザートドリンクだ。そもそもタピオカティーはデザートドリンクの一種だが、いまはそれ以外のものにも関心が広がっているという。

「タピオカがヒットした理由は行列に並ぶ体験価値ですが、若年層にウケた理由は他にもあります。1つは、小腹を満たせること。若年層は代謝が良くて、おなかが空きやすい。かといって、がっつり食べるのは抵抗があるというときにタピオカはぴったりでした。もう1つ、片手で持てることも忘れてはいけません。片手ならスマホやPCを操作するときに邪魔にならず、“ながら”で楽しめます。同じ片手でも、スナック菓子と違って手が汚れにくいことも人気の理由でしょう」

バナナジュース専門店とセブン-イレブンがコロボした「sonna バナナミルク」(写真=筆者提供)

 

「この2つの特徴は、他のデザートドリンクにも共通しています。体験価値は弱くなったものの、若年層にとって気軽に小腹を満たせる魅力は依然として大きい。タピオカに飽きたという人たちが、いま他のデザートドリンクに関心を移しつつある印象です」

ただ、コロナ禍においては、デザートドリンク専門店もタピオカ店同様に並びにくい。いま主戦場となっているのは、コンビニだ。

「以前からスイーツ専門店とコンビニのコラボはありましたが、最近はデザートドリンク専門店とコンビニのコラボが流行しています。今年6月には、バナナ専門店『sonnaバナナ』がセブン-イレブン限定で『sonnaバナナミルク』を販売しました。さらに8月には、レモネード専門店『レモニカ』が、森永乳業とコラボしたチルドカップのピンクレモネードを全国のコンビニで販売しています」