世界の本人認証のスタンダードから取り残される
人間の身体的特徴に基づく生体認証は、パスワードを覚えるといった手間がない。アリババグループでは、創業者のジャック・マー氏が顔認証技術の可能性を重視し、顔認証によるセルフレジを導入するなど、小売店舗の革新も進んだ。
問題は、生体認証データが盗まれると、更新ができなくなることだ。それを防ぐために、中国は量子暗号技術の開発を強化している。量子暗号の分野で中国の研究論文数は米国の2倍程度に達する。
そうした最先端の技術を積極的に活用することは、経済のデジタルトランスフォーメーション(DX)が進む中での利用者の安心感や信頼感を得るために重要だ。そう考えると、パスワードのみで本人確認を行った電子決済サービスが普及したわが国の状況は、世界の本人認証のスタンダードからかなり遅れている。
不正な預金などの引き出しは続く恐れも
わが国企業は、利用者が安心して使用できるシステムを可及的速やかに構築しなければならない。9月にドコモ口座を介した不正な預金引き出しが起きた以前にも、「セブンペイ」などで不正アクセスが発生した。
不正アクセスが海外から行われた場合、捜査は困難だ。本人認証の不備から類似の問題が続いていることは軽視できない。多くの企業や金融機関の本人認証は不十分であり、不正な預金などの引き出しは続く恐れがある。
わが国企業はそうした事例をひとごとではなく、自社に関わる問題と真摯に受け止め、対策を練らなければならない。不安がある場合には、システムの稼働を止めなければならない。それが利用者を守ることにつながる。企業はかなりの危機感を持ってシステムの強化に取り組むべきだ。
それは、わが国の規制改革にも大きく影響する。新型コロナウイルスの発生を境に、世界経済全体でDXがこれまで以上のスピードで進み始めた。欧米では、個人の納税情報と銀行口座情報がシステム上で紐づけられ、迅速に現金や各種補償が支給された。
それに対して、わが国では自治体がマイナンバーカードを用いたオンラインでの給付金申請に対応できず、紙ベースでの対応に追われた。信頼できる仕組みを整えてデジタル技術を活用することは、人々の安心感と社会の安定に無視できない影響を与える。