日銀に過度のリスクを取らせることでアベノミクスは成り立っていた

ここで注意しなければならないのは、日銀が抱えるリスクです。

当然の話ですが、国債や株式などには価格変動リスクがあります。日銀はこうした金融商品を大量に抱えているのです。すると、どうなるか。金利が上昇すればこうした保有資産の価格が下落することがあり、日銀は多額の含み損を抱えるのです。中央銀行の信頼度が損なわれる可能性があります。

原価数十円の1万円札が1万円の価値で流通しているのは、中央銀行の信用のおかげですが、それが損なわれるリスクがあるのです。

黒田東彦総裁の前の白川方明総裁(2008~2013年)の頃までは、「日銀券ルール」と言って、日銀は日銀券の発行残高程度しか国債などの価格変動のリスクのある資産を保有しないという了解がありました。

ところが、異次元緩和開始当初、100兆円程度保有していた国債は、現在(9月8日)は538兆円程度保有しています。それに加えて株式なども保有しています。日銀券発券残高は113兆円です。

先にも述べたように、多くの人が気づいていませんが、日銀に過度のリスクを取らせることで、アベノミクスはなんとか成り立っているのです。そして、国債発行残高の急増も、ある意味、日銀がファイナンス(お金の供給・調達)しているとも言えるのです。

次の政権も、おそらくこのスタンスを変えないと思いますが、大きなリスクがあることを認識しておかなければなりません。

日本経済の足腰はきわめて脆弱であることは間違いありません。国民の給与に直結する名目国内総生産はアベノミクスの中で一時的に伸びたものの、コロナウイルスが発生したことで、政権発足当時と変わらない水準に落ち込みました。この水準は1990年代から変わっていないことにも注意しなければなりません。

短期解決に優秀だった安倍首相が長期政権を担ったツケはこれから

これらは、すべて将来への付け回しです。私たちの子供や孫たちの負担です。アベノミクスの「3本の矢」だった成長戦略は全くというほど実現しませんでした。

短期的な問題解決には能力の高い首相が長期的な政権を担ってしまったというツケが、今後、国民に回ってくる瞬間がやってくるでしょう。どんな結末を日本経済に、また日本国民にもたらすのか、本当に恐ろしいです。

私が、安倍首相のもう一つのポイント・特徴と考えるは「公私混同」でした。

参議院選挙の結果に笑顔を見せる安倍晋三首相=2019年7月21日(写真=日刊スポーツ/アフロ)

いわゆる森友・加計問題、桜を見る会の問題は、首相がどんなに抗弁しても、本人やその家族の公私混同が露呈したものと言わざるをえません。それに官僚ら取り巻きの忖度まで加わった。このことで首相のリーダーシップのあり方や方向性に誤りが生じたように思います。長期政権によって権力が集中した弊害です。

経営コンサルタントとして、経営者の皆さんに「公私混同は会社をダメにする」ということを口を酸っぱくして言っている身としては、とても残念な話です。権力が集中し、そして、それが長期化すればするほど、知らず知らずのうちに、自分も周りもマヒしてくるのが人間の常です。それにより組織は滅ぶ。「部下が同じことをやっても許せるか」ということを、「その事案が公私混同かどうかの基準としてください」といつもお話しています。安倍首相の中にこうした自己チェック機能があったかは定かではありません。

短期的のみならず、長期的にも組織が良くなるよう問題解決をしながら、なおかつ公私混同をしないというのが、求められるリーダー像です。実現はなかなか難しいことですが、安倍首相はそのレベルに達することはありませんでした。

安倍首相が「7年8カ月の長期政権」でプラスな面をたらした半面、それ以上のマイナスをもたらしたことは、これからさらに明らかになるはずです。結果的に、政権を支持・承認し続けてきた国民は、今後、日本経済が長期的に厳しい局面を迎えることを認識しなければならないでしょう。

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