「定番」といっても作り方は多種多様

1925年にマヨネーズが発売された当時は、まだまだ高級品で、その後も原料不足の影響で安定して供給することはできなかったが、戦後になって一般家庭に普及するようになった。小泉武夫氏のエッセイ『食でたどる日本の記憶』(東京堂出版)のなかにも、1950年代になってはじめてマヨネーズを使ったポテサラを食べたときの感動がつづられている。おそらく、そのころに材料が安価で栄養価が高いポテサラが、居酒屋や料理屋の定番メニューにもなったと考えられる。

定番のポテサラといっても、ジャガイモを蒸すのか茹でるかによってジャガイモの歯触りが変わり、それをどの程度の粗さでつぶすかによって食感が決まる。マヨネーズとジャガイモの比率によっては、「マヨネーズ感」が強かったり、反対にジャガイモの味わいをストレートに表現したり。味を引き締めるためにお酢を加える店も多いし、コショウやカラシ、マスタードでキレを出す人もいる。

具材にしたって、卵を入れるか入れないか、入れるなら固ゆでか、半熟か。ピクルス、アンチョビ、オリーブなどの洋素材を加える店もめずらしくなくなってきた。要するに、われわれが「定番」だと思っているポテサラも非常に奥の深い料理なのである。

居酒屋には「外食ならではの楽しさ」が求められる

こうしたオーソドックスなポテサラのしみじみとしたおいしさは捨てがたいものがある。しかし、いまは味にしろ、演出にしろ、居酒屋には外食でしか得られない楽しさや感動が求められている。先に紹介した「串カツ田中」のポテサラなどはその典型で、ただおいしいだけではなく、そこに娯楽性があるからこそ、お客に受けているのだろう。

「出来たてのポテサラ」も同じで、家庭でかんたんに味わうことはできない。肉を売りにしたビストロでよく見かけるベーコンの塊をのせたポテサラ、ワイン酒場で提供する生クリームとバターをたっぷり使ったリッチなポテサラなども同様だ。

一般的なポテサラであれば、スーパーの総菜売り場からデパ地下、コンビニでも買えて、それなりにおいしかったりする。居酒屋のポテサラは、外食店でしか味わえない創意工夫がいま以上に求められていくだろう。最近、SNSをにぎわせたように、家庭でポテサラをつくるとなると意外と手間がかかる。ぜひ酒場めぐりをしながら、お気に入りのポテサラを探してみてほしい。

【参考文献】
みんな大好き ポテトサラダ』(新星出版社)
ポテサラ酒場』(辰巳出版)
居酒屋2018』(柴田書店)
居酒屋NEO』(柴田書店)
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