BTSの愛読書に登場する老子の言葉

では、BTSの持つ言葉の力は、どこから来ているのだろうか。そのヒントとなるのが、V(愛称:テテ)の愛読書、シン・ドヒョン、ユン・ナル著『言葉の力 世界の古典と賢者の知恵に学ぶ』(日本語訳版がかんき出版から刊行されている。以下、『言葉の力』)だ。

古今東西の賢者、宗教家、哲学者の名言をかみ砕いて、現代を生きる知恵としてよみがえらせた名著だ。孔子、釈迦、イエス・キリスト、スピノザ、マルクス、サルトルなどのキラリと光る言葉が紹介されている。

その中に登場する一人が古代中国の智者、老子だ。老子は春秋戦国時代を生きた伝説的人物で、司馬遷の『史記』によれば孔子に礼の道を教えたとされる。『言葉の力』にはその老子のこんな言葉が引かれている。

「天下を治めることより、自分の身を大切にする者にこそ、天下を任せることができる。自分の身を愛する者だからこそ、天下を託すことができるのだ。」

これはどういう意味だろうか。常識的に言えば、自分を犠牲にして世の中に尽くそうとする人物にこそ、世の中のことを任せようとするのではないだろうか。ところが老子はこの常識をひっくり返す。自分を愛する者にこそ、天下を任せようというのだ。

2500年前の言葉が最新のK-POPグループの歌に込められている

老子の言う「自分を愛する」とは、具体的にどういうことか。原文を見ると、先の引用文の前にはこんなことが書かれている。「人から評価されたりバカにされたりして大騒ぎするのは、くだらないことだ。それは本当の自分の価値とは何の関係もないことだからだ」

シン・ドヒョン、ユン・ナル『言葉の力 世界の古典と賢者の知恵に学ぶ』(かんき出版)

つまり老子は、世間からどう見られるかよりも、自分の価値を大事にすることこそ大切だと言っているのである。自分の価値を知り自分を愛する人は、個人の価値を理解している。そういう人こそ、他人の価値を理解し、真に他人を愛することができるのだ。逆に、世の中に身を捧げると言う人は、他人にも同じ犠牲を強いることにもなる。

2500年前に墨で書かれた「愛以身為天下、乃可託天下」という言葉が、最新のK-POPグループの歌「Answer:Love Myself」を通じてインターネットで世界に広がるというのは、実に面白い現象だ。

『言葉の力』には他にも、「人生の主人公は自分である。この真理を忘れては幸せになれない」(瑞巌禅師)、「一人ひとりの人生は一個の芸術作品だ。自分は他人と違うからこそ価値がある」(ミシェル・フーコー)、「グラスの形は忘れても、ワインの味は忘れない。言葉の形式よりも魂の声こそが真実を伝える」(ハリール・ジブラーン)といった至言が満載されている。

本書をひもときながら、賢人たちの英知がBTSの音楽にどう溶けこんでいるのかを想像してみてはどうだろうか。

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