ゲームをしないと思っていた人たちにもゲームをしてもらう方法はある。5歳から95歳まで誰でも同じスタートラインでゲームを楽しんでもらうのは決して不可能ではないことを脳トレは証明してくれた。自分たちもやればできる気がする。社内の目の色が変わり、Wiiを取り巻く空気も一変し、それまで腰が引けていた人たちも本腰を入れ始めた。脳トレの大ブレークは本当に幸運でした。

DS発売日に東北へ向かったとき、社員たちは、この大事な日に社長は何やっているんだと思ったでしょう。もし京都に残っていたらソフトの開発は遅れ、すべてタイミングがずれたかもしれない。そのときそのときで自分でよいと思って行ったことが後々ビックリするような結果につながった。任天堂がこれほど短期間に大きな変化を起こすことができたのは、幸運との出合い抜きには語れません。

ときには踏みならされた道を離れ、新しい道に入ってみる。そこで出合った偶然を活かせば非連続な変化を起こせる。人と違うことをするのは常にリスクを伴いますが、不可能だと思ったことを可能にできる自信がつけば、みんなが新しい道に進もうとする。ロジックも必要ですが、機を見てロジックを脱する思考と行動がとても大切だと私は思っています」

▼幸運との出合いは、偶然のようで実は非連続な行動により“必然化”できるという意味では一つの能力といえる。「最高の自社商品を時代遅れにする最初の会社になれ」とはアメリカの創造的企業3M社で語り継がれる言葉だが、任天堂は見事に達成した。相対価値から絶対価値への転換、論より実践を通じたコンセプトの共有、幸運を呼び込む非連続的な行動特性……企業の創造性はそのかけ算によって決まるということだ。
(インタビュー・構成=勝見 明 撮影=浮田輝雄)
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