【POINT:3】 偶然の幸運を呼び寄せる脱ロジカルシンキング
ところで、Wiiの開発には「もしこれがなければ実現は難しかった」といわれるほど、ある出来事が密接に絡んでいる。ニンテンドーDSの専用ソフト、東北大学川島隆太教授監修の「脳を鍛える大人のDSトレーニング」の大ブレークだ。「すべては幸運抜きには語れない」と岩田氏はいうが、幸運を招いたのは自身の非連続な行動パターンだった。
岩田「今回、何が幸運だったのかといえば、DSの仕上げの時期とWiiの骨格をまとめる時期が重なったことです。
DSは2つの画面と専用のタッチペンで直感的に操作できるのが特徴です。相性の合うソフトはどんなものが考えられるか。部門横断プロジェクトを組んで検討する中で私が提案したのが、川島隆太先生の『脳を鍛える大人の計算ドリル』『音読ドリル』のゲーム化でした。
プロジェクトに参加していたプログラマーがつくってくれた試作がまたとても手応えがよかった。ぜひ川島先生に見せに行こうとさっそくアポイントを取りました。それが04年12月2日、DSの発売日と重なってしまったのです。
本来ならトップは率先して店頭に立つか、本社で待機するでしょう。その日、私は東北大学へ向かいました。脳トレーニングを提唱する川島先生がどんな反応を示してくれるか、自分の目で確かめることがDSのポテンシャルを見きわめるうえでとても大事に思えたのです。ロジックでは説明できません。先生が私と同じ年で因縁を感じたのも大きかった。
あっ、脳血流が上がっています、このソフトはこれで大丈夫ですよ。先生はとても感激してくれて、同行したスタッフの頭に測定機をつけ、血流量を測るとその場で太鼓判を押してくれました。30分の約束が3時間に延びていました。
すぐやろう。わずか3カ月で完成させたソフトは初めは典型的な売れないソフトの売れ方でした。それが3カ月目くらいから、シニア層がやっているのを見た、親にやらせたら面白がって置いていけといわれたといった話が次々入ってきた。これはとんでもないことになるかもしれない。すぐに続編の『もっと脳を鍛える大人のDSトレーニング』を投入し、テレビCMに松島菜々子さんを起用。結果は合わせて300万本を超えるベストセラーになり、脳トレブームの火つけ役になったのはご存じの通りです。