「出向中に仲良くなった人たちと今もお付き合いしていますよ」。何事もポジティブに受け止める小俣さんだからこそ、新しい職場でも仲間が増えたのだろう。

とはいえ出向中、心配だったことがある。定年の60歳までにCAに復帰できないと雇用延長後はCAとして働けなかったからだ。結局、出向は3年間で終え、定年の半年前にCAに復帰できた。「その時はホッとしました」と小俣さん。

「目の前のことをきっちりやれば、次が見えてくる」

最近、小俣さんは入社5、6年目の若いCAに「なぜ小俣さんはこんなに長く働けたのですか?」と尋ねられたという。小俣さんの答えはこうだった。

「私は人に誇れるようなことは何もない。すごく努力をしたわけでもない。目の前でやらねばならないことをきっちりやればいいのよ。そうすると次にやることが絶対に見えてくるから。人に教えてもらうこともあるけれど、自分で見えてくることもあるわ」

小俣さんの流儀は「まずは目の前の課題を全力で取り組む」ということなのだろう。それが次の課題に続き、そして夢の実現につながる——。

小俣さんを取材していて、アップルの創業者、スティーブ・ジョブズが2005年にスタンフォード大学の卒業式で語った有名な演説“Stay Hungry, Stay Foolish”を思い出した。その中で、ジョブズは“Connecting the dots”(点と点をつなぐこと)の重要性を強調した。

目の前のモノに一生懸命取り組むと、おのずと点と点はつながり、素晴らしい未来にたどり着くものなのだ。先々のことを思い悩み、点と点をつなごうとしてもうまくいくとは限らない。そんな人生訓である。

小俣さんのCA人生も“Connecting the dots”そのものであった。

撮影=遠藤素子

「前に出るのをやめました」自覚する自身の役割

今もシニアエキスパートCAとして飛び続ける小俣さんは彼女よりずっと若いCPのもとで働いている。「私ならこうやるのに! などと忠告したくなりませんか?」と意地悪な質問をしてみた。

すると「前に出るのをやめました。今のCPは私たちの頃と比べてちゃんと育てられています。彼女の『便』を作ればいいのです。もしも間違っていることがあれば助けるのが私の役割ですが、そんなことはあまりありません」と小俣さんは言う。

撮影=遠藤素子
打ち合わせ風景