【三戸】それと比べると、同じ有人でもスペースXはうまくやっている?

【堀江】スペースXは民間企業だから人気取りをする必要はないよね。

【三戸】でも、スペースXのファルコン9ロケットも、第1段ロケットは打ち上げたらエンジンを逆噴射して地上に帰還させて、再利用していますよね?

【堀江】再利用すると、帰ってくるときも燃料が必要で、1~2割は余計に積まないといけない。エンジンの再整備も必要。僕らの計算だと、いくら再利用しても、コストは大して安くならないね。

【稲川】はい、スペースXは、第1段ロケット再利用の実用化以前から、安くて利益率の高いロケットを開発していました。だから再利用しようがしまいが、コスト削減効果はあまりない。

【三戸】じゃあ、どうして再利用するんでしょうか。

【堀江】宇宙開発関係者たちは、火星に着陸するときに必要な技術を磨くためだって言っているね。火星は地球の100分の1くらいしか大気密度がないから、着陸が難しいんです。地球ならパラシュートを開いて、空気抵抗で速度を落とせるけど、火星は大気が薄いから、最後は逆噴射して制御するしかない。再利用と言っているけど、それはただの方便で、目的は別にある。

【三戸】インターステラテクノロジズ(以下IST)のロケットは、再利用は考えてないんですよね?

【堀江】再利用するとよくないことがいっぱい起こる。ロケットの部品はめちゃくちゃ繊細で、ギリギリの安全率で作られているから、再利用なんて怖くてできないよ。

【稲川】何回も使えるようにしようと思うと、それだけ重くなりますしね。

【堀江】それに再利用すると、旧式のものを使い続けることになるから、バージョンアップがしづらいんですよ。逆に、使い捨ては新しいバージョンを試しやすいし、一回使えればいいから軽くできるし、何度も作るから量産効果が出てきてコストも下がる。おそらく再利用型よりも使い捨て型のほうが強くなる。だからISTは使い捨てです。

世界に勝負できる戦略がある

【三戸】20年3月に米国破産法第11章を申請したワンウェブのことはどう見ていますか。衛星コンステレーション(多数の衛星を統合して運用するシステム)を使った衛星通信計画で注目されていましたが……。

【堀江】ワンウェブは、勝ち目ないよなあ。スペースXのスターリンクが出てきた時点で負け。スターリンクは、スペースXの衛星コンステレーション計画のことだけど、現時点でスペースXに勝てる会社はありません。ワンウェブは自前のロケットを持っていないけど、スペースXは自前のロケットがあるから他社より安く衛星を打ち上げられる。

AFLO=写真
スペースX創業者のイーロン・マスクCEO(左)。スペースXが開発した宇宙船「クルードラゴン」が2020年5月30日に打ち上げられ、国際宇宙ステーション(ISS)への有人飛行を成功させた(右)。民間企業が開発した有人宇宙船によるISSへの有人飛行は世界初。