戦時ムードを高めて、医師や看護師らを英雄扱い
並行して、人民解放軍以外にも省ごとに病院職員らによる医療支援団が組まれた。各地の空港から、段ボールに詰めた医療物資を携えた医師や看護師らが次々に武漢を目指して出発した。湖北省への医療支援団は、3月までに計4万人を超えた。
甘粛省では地元の共産党系メディアが、「美しい髪を切り落とし、戦地に赴く」として、湖北省に向かう医療団の壮行会で十数人の女性が丸刈りにされる動画を投稿した。涙を流す女性もおり、インターネット上では「明らかに嫌がっている」などと批判が集中。甘粛省当局は「丸刈りは感染予防のため」と釈明したが、専門家は「通常はキャップで頭髪を覆う」と疑問を呈した。
中国では、医療従事者の待遇が日本より低いとの指摘もある。しかも感染の危険性がある困難な現場への派遣だ。共産党としては、メディアを通じた宣伝で戦時ムードを高めて医師や看護師らを英雄扱いし、現場のやる気を高めようとしたのだろう。街頭や空港などでも、「白衣の天使に敬意を」などと書かれた横断幕をよく見かけた。
10日間で建設された病院は、足元が泥だらけ
医療崩壊の事態を打開するには、病院を増やすしかなかった。1月24日、武漢市の中心部から車で1時間弱の湖畔の空き地で、数十台のショベルカーが一斉に地面を掘り返し始めた。患者を受け入れるため、新しい病院の建設が始まったのだ。工期はわずか10日間の突貫工事だ。中国政府は重症急性呼吸器症候群(SARS)が流行した2003年に北京で急ごしらえの専門病院を1週間で建設したことがあり、その経験を生かすことにした。
武漢に建設する新病院は「火神山医院」と名付けられた。敷地は東京ドームの約4分の3で、病床は約1000床。続いて別の場所では1600床の「雷神山医院」の建設も始まった。火神山医院は2月3日、雷神山医院は8日に運用を開始した。
国営テレビは開院当日、さっそく運び込まれる患者の映像を報じた。院内には最新の医療機器が設置されたという。だが患者を担架で運び込む場面を見ると、足元は泥だらけだった。急ごしらえでもとにかく病床を確保しなければならない苦しい事情が垣間見えた。