患者や家族が医師や看護師を殴ったりする例が急増
患者だけでなく医療従事者も追い詰められていた。「もう耐えられない」。インターネット上では1月下旬ごろ、武漢市の病院で泣き叫ぶ女性看護師の動画が拡散された。医師や看護師が足りず、多くの医療従事者が不眠不休に近い状態だった。防護服やマスクなどの医療物資も不足し、感染する人も続出。中国政府の発表によると、2月下旬までに中国で約3000人の医療従事者の感染が確認されている。
湖北省の王暁東省長は1月26日、「3日以内に防護服やマスクの生産を拡大させる。3日後には省内の防護服の1日当たりの生産能力を1万2000件に、10日後には3万件に拡大する」と約束した。湖北省政府は30日の会見でも、省内の企業を動員して医療物資を増産し、中央政府や他省に援助を求めて不足を補うと再度強調している。高機能マスクや防護服が多数寄付されているとも説明した。だが当局が寄付を医療現場に公平に分配していないとの疑念も噴出し、省幹部は「批判を誠心誠意聞き入れる」と異例の釈明に追い込まれた。
医療従事者たちに対する暴力も問題になっていた。満足な治療が受けられない中、感情的になった患者や家族が医師や看護師を殴ったりする例が増えたのだ。湖北省当局は29日、人につばを吐きかけた感染者は刑事責任を追及すると通知した。30日には武漢の病院で死亡した患者の家族が医師を殴り、マスクと防護服を引きちぎったとして拘束された。あまりに過酷な環境に、現場の医師の不満は募る。当局は医療従事者を対象に、休日の付与や食事券の支給、子どもの進学や入試面での優遇措置を打ち出した。
紙おむつで奮闘する医療隊を「最前線の模範」と称揚
一方、中国共産党は、人民解放軍の医療隊を武漢に派遣することを決めた。医療崩壊で死者が続出している武漢は、もはや「戦時状態」の位置付けとなった。
24日、迷彩服を着た軍の医療隊員らが乗り込んだ軍用機が、上海、重慶、陝西省西安から武漢へと飛び立った。同日深夜までに計450人の医療隊が武漢の空港に到着した。陸海空軍の軍医大学から選ばれた隊員たちだ。重症急性呼吸器症候群(SARS)が流行した際に出動した経験のある隊員も含まれる。重症者の多い市内三つの病院に分かれて配置された。
中国では、軍は国ではなく共産党の指導下にある。軍を指導する中央軍事委員会の主席は、習近平国家主席が兼務している。国内で地震や洪水など大規模災害が起きたときには軍が出動することが多い。国営メディアなどは、そのたびに軍による救援活動をたたえる報道を展開する。
武漢に入った医療隊についても、「私は共産党員です。行かせてください」「子どももいないので後顧の憂いはありません」などと志願した隊員らが「出征」したと報じた。また、「現場では6~8時間はトイレに行けない」として紙おむつを穿いて医療活動に携わった隊員のインタビューを放映し、「最前線の模範だ」などと報じた。