今こそ見習うべき「レジリエンスの祖」ヴェネツィア
それはヴェネツィアだ。当時、国際貿易ハブ港として繁栄をきわめたヴェネツィアは、瞬く間に黒死病蔓延の中心地となり、人口の60%が命を落とした。
当初は大敗北を喫したヴェネツィア人たちだったが、KOされたわけではなかった。もちろんヴェネツィア人にとっても、黒死病の原因は皆目わからず、この病気の治療は選択肢になかった。
代わりにとった戦略は、レジリエンス(回復力)に焦点をおくことだった。たとえば、ハリケーンを止められないのなら、風にたわみながらも跳ね返す、しなやかな木になればいい。
彼らは実効性があるもの、ないものを徹底的に検証し、改良を加え、今日でも用いられるレジリエンス管理の実践的な対策を数々生みだした。
検疫という言葉の発明とその効能
たとえば、ヴェネツィアはペストが流行した当時、「検疫(quarantine)」という言葉を作った。検疫という行為そのものを発案したわけではないが、それを改良し、非常に効果的な策にしたのだ。
ラグサ共和国(現在のクロアチア)はすでに汚染地域からの外国船を、入港前に30日間沖に停泊させ、黒死病の封じ込めに一定の成果をおさめていた。ヴェネツィアはその方法を取り入れ、詳細な記録をつけた。そのデータに基づき、停泊期間を40日間に延長したのだ。
のちに近代医学は、腺ペストの感染から死亡まで37日間要することを発見した。なかなかやるじゃないか、中世ヴェネツィア。
ギリシャや南欧諸国の多くは、16~17世紀にも度々ペストの大流行に見舞われたが、ヴェネツィアやその支配下にあったイオニア諸島ではその間、小規模な流行を見るにとどまった。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は黒死病ではないし、あなたは都市のように大きくて複雑なシステムではない。それでも私たちは、自分と大切な人たちのために、これからも強く、しなやかに闘っていかなければならない。
困難な状況でも前進し続けるために、メンタルの強さを保つにはどうすればいいだろう? 幸運にも、私たちは中世のヴェネツィア人より豊富なデータを入手できる。
ということで、パンデミックに直面しても心の強さ、しなやかさを失わずにいられるように、学術的な研究成果や過酷な状況から生還した人から学べることを紹介する。