もはや民主党左派的要素で決定的なものはない
そして、コミュニティ・カレッジの無償化や年収12万5000ドル以下世帯に対する大学 4年間の学費免除などは盛り込まれたものの、既存の学生ローンの帳消しは盛り込まれなかった。これも左派がしつこく主張してきた政策であるが、高等教育の税負担化だけが残された形となっている。むしろ、アプレンティス制度(職業教育制度の一環)や貧困地域への投資促進など共和党が推進してきた制度の拡充などもうたわれており、共和党から見ても全否定しにくい内容だ。
つまり、選挙争点になりそうな民主党左派的要素で決定的な要素はほぼなくなっているということだ。環境関連や労働法制強化などについては、共和党保守派は不満であろうが、中道派から見ると一定のバランス感覚があるように見える。
しかし、民主党左派は政権奪取後にイデオロギー色が強い政策を別途粛々と推進するということが予測されるため、これもあくまでも「バイデンが目立たない」という点に配慮していると言えるだろう。
Ⅲ.トランプ減税の法人税減税を「半分だけやめる」という選択
バイデンの経済政策を目立たなくさせる最大のポイントは法人税21%を28%まで戻すことに演説で言及したことだ。トランプ大統領は35%の法人税率を21%にまで引き下げたので、バイデンはそれを半分だけ元に戻すことを主張していることになる。
その他の減税の見直しについては、所得税最高税率はクリントン政権時代の約40%に戻すものの、左派が求めるそれ以上の大増税には言及しない。そして、キャピタルゲイン税や富裕層税控除については触れるものの、その影響による中間世帯の増税については触れようとしない。
もちろん、共和党側はこれらの法人税減税見直しや資産効果・富裕層課税に対して批判するであろうが、トランプ減税のシンボルである法人税減税見直しがトランプ減税分の半分でしかないことの意味は大きい。この数字であれば共和党内の穏健派などは納得する可能性もあるため、共和党保守派が増税批判を過熱させようとしてもその効果が限定的な状況に留まる可能性がある。