対中政策もトランプに寄せる

また、上記の4000億ドルの他に「Innovation in America」と称して研究開発に対する3000億ドルの大規模な投資も経済政策に盛り込まれている。これは「中国製造2025」に対抗するための米国の研究技術開発に投資するものだ。更に「Stand up for America」や「Supply America」の掛け声の下に、中国の不公正な貿易慣行や知的財産権侵害、そして中国等から自国への製造サプライチェーン回帰などが並んでいる。対中の産業政策に関する方針はトランプ政権と瓜二つのもので、トランプかバイデンかの区別はほぼ無いと言って良い。

したがって、トランプ政権からは「パクリだ!」と批判する以外は批判しづらく、その方向性自体を否定することはトランプ自身の政策の自己否定となってしまう。その結果として、仮にトランプ・バイデンで直接討論になったとしても、やはり「政策の方向性」ではなく「大統領の人格」が問題となってしまう可能性が高まっている。

Ⅱ.党内左派からの過激な政策の注文の先送り

今回の経済政策の発表に際して、バイデンの経済政策にサンダースらの党内左派の政策がどれだけ並ぶのか、という点も重要なポイントであった。しかし、サンダースらが主張していた政策はほとんど入っていない。

グリーン投資の促進、2050年までの排出量ゼロ、気候変動に対応しない政権に対して炭素税調整を行うなどの強烈な内容は盛り込まれているものの、米国のシェール産業に決定的な打撃を与える水圧破砕法(フラッキング)禁止については盛り込まれていない。水圧破砕法禁止を盛り込むと、オハイオ・ペンシルベニアなどのラストベルトで同項目が争点化してしまうため、左派が求める禁止政策はあえて経済政策に盛り込まれずに見送られている。

米国版の皆保険制度であるメディケア・フォー・オールも入っていない。労働政策、女性支援、マイノリティ支援などの福祉的な要素がある政策は盛り込まれたものの、サンダースやウォーレンの社会保障政策の一丁目一番地である同政策は盛り込まれなかった。あくまで経済政策の公表であることを前提としても、それらについて言及しない点は共和党からの「社会主義批判」を回避する意図があるものと想定される。