自由市場経済が生活の質を向上させてきた

ドイツは言うまでもなく、自由市場経済をとっている国だ。市場において、ものやサービスが自由に取り引きされる。生産者が何を作るか、消費者が何を買うかは、それぞれが自由に決める。それによって需要と供給が調整され、価格が定まる。新しいアイデアが資本を引きつけ、また、資本を引きつけるために、新しいアイデアが生み出される。自由市場経済をとっている国では、すべてがあたかも自然現象のように、できるだけ無駄をなくし、生産性を高める方向に進む。そして、それが結果として、人間生活の質を向上させてきた。

ただ、弊害もある。市場を自然の成り行きに任せておくと、技術の進歩で世の中は便利になるが、巨大資本ができ、貧富の格差が広がっていく。そこで、その対案として計画経済が生まれた。何を生産し、何を消費するかを、市場ではなく、国が決めるのである。

市場経済はまだ電気自動車を求めていない

川口マーン惠美『世界「新」経済戦争 なぜ自動車の覇権争いを知れば未来がわかるのか』(KADOKAWA)

計画経済の特徴は、競争の原理が働かないことだ。どんな製品をいくつ作るかがすでに決められているのだから、もちろん技術革新のモチベーションは失速する。製品が改善されるとしても、そのスピードはノロノロとしていて、おそらく人々の欲求には追いつかない。計画経済の下では、魅力的な商品が作られないこと、そして、経済がさほど拡大しないことを、私たちはすでに世界のあちこちの例で知っている。

そこで戦後の西ドイツでは、その中間をとるということで、従来の自由市場経済主義に、十分な福祉政策を加味した“社会的市場経済”という第三のモデルが採られた。つまり、自由な経済活動に国が福祉制度で適度に介入するのである。

そして、これが成功を収め、西ドイツでは奇跡の復興と呼ばれた急成長が起こったにもかかわらず、搾取の少ない比較的平等な社会となった。西ドイツ人は、この成功で、東ドイツにあらゆる意味で破格の差をつけた。自由経済の下、どんどん素晴らしいイノベーションが起こり、メイド・イン・ジャーマニーは世界にその名を馳せた。彼らは自分たちが改善した自由経済主義を誇りに思っていたはずだ。