ドイツ人は車にこだわる。18歳以上の成人の3人に2人が車を持っており、日本人より車が身近だ。ドイツ在住の作家・川口マーン惠美氏は「ドイツ人にとって車は、豊かさであり、自由の象徴なのだ」という——。

※本稿は、川口マーン惠美『世界「新」経済戦争 なぜ自動車の覇権争いを知れば未来がわかるのか』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

裏庭に駐車された、ビンテージのフォルクスワーゲン・ビートル
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ドイツ人の「車へのこだわり」はなぜ生まれたのか

ドイツ人の車へのこだわりは半端ではない。ガソリン車を作ったのはダイムラーやベンツで、ディーゼルエンジンの発明者はその名の通りルドルフ・ディーゼルであるから、車を発明したのは自分たちだというドイツ人の自負は、事実に基づいている。そもそも、自動車のエンジンのもととなる内燃機関を発明したのも、ドイツ人のニコラウス・オットーだった。

名高いドイツの高速道路「アウトーバーン」の前身は、「帝国アウトーバーン」だ。1933年に政権を掌握したアドルフ・ヒトラーが即座に取り組んだプロジェクトで、ドイツ全土に全長7000キロメートルの高速道路網を建設することが計画された。最初の区間は1935年に開通している。

当時のドイツは、ヴェルサイユ条約で定められた第一次世界大戦の巨額の賠償金のせいで不景気のどん底にあり、膨大な失業者を抱えていた。つまり、「帝国アウトーバーン」計画は、どん底にあったドイツ経済を立て直すためにヒトラーが考え出した財政出動の一環である。