「人々の関心はこっちだろう。新聞を盲信するな」

番組の準備は前日夜7時ごろから始まる。取り上げるニュースを確定するためにディレクターがコメンテーターと複数回打ち合わせる。深夜にかけては台本づくりだ。プロデューサーが朝3時にスタジオに入るとすぐに打ち合わせ。5時、森本のチェックが入る。

つい最近、ディレクターの志田卓は、各朝刊トップに合わせて「イージスアショア計画停止」のニュースをトップに台本をつくったところ、森本からダメ出しされた。前日、コロナの感染者数が東京で再び2日連続40人を超えていた。「人々の関心はこっちだろう。新聞を盲信するな」。自分の頭で考えよという意味だ。

撮影=三宅玲子
スタジオでは4人のスタッフが番組を支えていた。

阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件、ベルリンの壁の崩壊、ニューヨークテロ事件、東日本大震災。歴史に残る事件を伝えてきた。突発ニュースが起こると森本が陣頭指揮をとって急ごしらえの台本に切り替わる。遠藤はコマーシャルのタイミングをそっと伝えるなど、番組がスムーズに進行するよう裏方に徹する。森本とコメンテーターが進行する間、遠藤は静かだ。

「リスナーにいちばん伝わる方法は、お二人がしっかり話されることです。そのためにもお二人にとって伝えやすいことが大切です。中途半端な言葉を挟んでは邪魔になりますから」

54歳で離婚し、69歳で再々婚。今は認知症のパートナーを介護

加齢とともに体力は衰えるが、なかでも気が抜けないのは歯のコンディションだ。

「たった1本インプラントにするだけで舌の動きに影響します。アナウンサーにとっては食べ物がかめることより、変わらずに話せることの方が大事なんです」

思わぬ箇所で舌がもつれることがある。その度に舌の運動をして調整する。プロの仕事をするためだ。

撮影=今村拓馬
遠藤がマイクに向かうとスタジオの空気は引き締まる。

けれど、気力の衰えは一度も感じたことがない。

「もちろん、日々を生きていくなかでは、悲しいこと、つらいこと、いろんなことがありました」

54歳で再び離婚し、69歳で再々婚。今は認知症となったパートナーを介護している。

「でも、毎朝5時に赤坂に来れば気持ちを切り替えて仕事に集中します。この番組に参加する充実感はかけがえのないもの。体調が悪いときも気持ちがふさいでいるときも、この仕事がいやだと思ったことは一度もありません」

幸せですと、遠藤は3度繰り返した。

『誰かとどこかで』は2013年9月の最終回まで46年9カ月、1万2638回。『スタンバイ』は4月、31年目を迎えた。

入社1年目でディレクターから受け取った言葉に忠実に仕事をしてきた。『スタンバイ』が終了するときが引退と決めている。