希少価値の高い女性となることや、人気を博することへの小池さんの執着に対する著者の違和感はよく伝わる一方で、その厳しいまなざしが果たして男性の場合にも適用されるのだろうか、とも感じた。ミニスカート。偉い男性の懐に飛び込む浸透力。かいがいしさや食事作りのうまさ。

小池さんのこうした能力やアピールは酷評されても、夜中まで煙草を吹かして麻雀をやったり、ノーパンしゃぶしゃぶに行くような男性同士の密な付き合いにはそのような厳しい緻密な筆が走らされ、生涯の歩みが追いかけられ否定され尽したことは少ないのではないか。おそらく本書のようなタイプの小池批判は、煎じ詰めれば、「女を使う」「言ってることとやってることが違う」の2つにシンプルに帰着するのだろう。

政治家は語学ができるかどうかではない

学歴詐称疑惑の件は、人によってものの見方が違うと思う。カイロ大学の学長から学歴詐称の主張に強い抗議声明が出されたが、それがどうというわけではない。カイロ大としては人脈次第で「卒業」できると言われてしまうと沽券にかかわるのだろうから。小池さんにそんな首席を取るほどのアラビア語能力があるとは思えない。でも彼女は十分英語に堪能だ。しかも政治家は語学ができるかどうかのレースを戦っているわけではない。多くの政治家はほどほどには嘘をつくし、世の中はそもそも不公平で不公正なのである。自分で首席と言ってのける臆面のなさに呆れることと、政治家としての彼女への不信感はまた少し違う。

私は小池さんに総理候補として期待を寄せたことはない。豊洲移転に関する論争が持ち上がったとき、そのやり方を見て批判的になった。2017年衆院選に希望の党を立ち上げたときには、スピーチの中身がないことに愕然とした。本書が語る小池都知事の虚実ないまぜの偶像は、もはや誰も信じていないのではないか。あまり彼女を怪物扱いせずに、等身大で政策の中身や能力を論じるべきときに来ているのではないかと思う。

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