構造変化がもたらすチャンスとリスク
経済の構造変化は、チャンスとリスクの両面で企業活動に大きく影響する。企業が急速な変化に柔軟に対応できれば、競争優位を築く好機となる。一方、特定の目的に最適化された組織や緻密に策定された中期経営計画など、企業が従来の強みに固執すれば、競争力強化の足かせになりかねない。
また、技術進化により、企業が活用可能な情報量は飛躍的に増大し、これを掴んだ企業の事業機会は、伝統的な産業の枠組みを超えて拡大していく。一方で、有益な情報は活用が進んだ企業に集中する傾向があり、すべての企業が恩恵にあずかるわけではない。
私たちは、大きな構造変化の中で、企業が競争に勝ち、継続的に成長するためには、企業経営の基盤を従来の枠組みを超えて進化させることが不可欠と考えている。特に大企業は、従来の強みが陳腐化し、その大きさゆえに構造変化への対応が後手となるリスクに正面から向き合う必要がある。従来事業の延長での成長施策や対応療法的なコスト削減では、構造変化への対応としては不十分だ。
構造変化の動きを察知した国内外の「先進企業」は、すでに企業の根幹をなす基盤の進化を急速に進めつつある。2020年代は、企業基盤進化の成否が、グローバル市場における企業の優勝劣敗を決すると言っても過言ではない。
日本企業が、2020年代を「輝きを取り戻す10年」とするためには、今、ビジネスリーダーが、構造変化の本質を理解し、企業基盤の進化の方向を定め、実現に向けた打ち手に着手することが大切だ。本論では5つの方向性を示したい。
① 新しい競争ロジックをマスターする
第1の企業基盤の進化は「新しい競争ロジックをマスターする」ことだ。これまで、企業は類似製品・サービスで、いつもの競合との競争を展開してきた。静的な競争環境の下で、企業は規模拡大を図り、「エコノミー・オブ・スケール(規模の経済性)」を通じ、コスト削減と長期間適用可能なナレッジ蓄積を実現し、競争優位性を構築してきた。
今後は、競争環境が動的な変化を強める中で、データに基づき顧客の理解を深め、新製品・サービスの発見と継続的な発展を大規模かつ急速に実現する「エコノミー・オブ・ラーニング(組織の継続学習能力の経済性)」が重要性を増す。企業が活用可能なデータが飛躍的に増大することが、新しい競争ロジックへの移行を後押しする。
この動きはすでにB2C(企業対個人)で顕著だが、今後はIoTなどの進展によりB2B(企業対企業)の世界でも急速に広がっていくとみられる。
「エコノミー・オブ・ラーニング」の下での重要な経営テーマの一つが、企業が顧客理解を深め、最適な価値を提供することで売上増につなげる手法である「データ・ドリブン・マーケティング」だ。市場が成熟する中で、この巧拙が、企業の成長を大きく左右する。
ここで大切な学習能力のひとつが、AIなどによるビッグデータ分析に基づき、顧客理解を深め、顧客への働きかけとフィードバックを通じ、販売、商品管理、商品開発などを急速かつ継続的に改善するものだ。「データ・ドリブン・マーケティング」では、データの分析方法にとどまらず、その結果を企業のバリューチェーン上の様々な活動に反映し、成果につなげる組織能力を構築することが極めて重要である。