④ 先が見えない時代に経営手法を進化させる

第4の基盤進化は、「先が見えない時代に経営手法を進化させる」である。30年前の1990年に、今日のインターネットの隆盛、デバイスやデジタルサービスの進化、AIや画像技術の進化、並びにそれらの事業への影響を的確に想定し得た人はどれくらいいただろうか。まして、今後の構造変化を見据えると、将来の予測はますます困難になると思われる。もはや、将来の正確な予測は不可能と考えた方が良い。

だからといって、将来の社会像を考えることなく、事業を推進しても成功確率は極めて低いと言わざるを得ない。企業は、将来が不確実で予想不可能なことを前提にした経営手法を確立する必要がある。

「シナリオプランニング」は、不確実で予測不可能な将来を見える化し、そこから引き戻す(バック・キャスティングする)ことで、企業として、今、何をすべきかを明らかにする手法である。

具体的には、想定されるメガトレンドから自業界・自社に関係の深いものを抽出し、それらの幅をもとに将来の事業環境の幅をシナリオとして設定する。その上で、自業界・自社への機会と脅威を特定し、それらへの備えとして、企業が今までのやり方と何を変えるべきかを明らかにする。これらの議論のプロセスを、事業運営のキーパーソンが合同で経験することで、目指すべき方向性に関しての共通理解も得やすくなる。

⑤ 企業の「あるべき姿」を再定義する

第5の基盤進化は、「企業の『あるべき姿』を再定義する」ことだ。伝統的に企業は、規則や利益目標を定め、企業の事業目的と構成員の活動を合致させることに努めてきた。しかしながら、複雑性が増し、想定外のことが頻発する今日において、同様のやり方で構成員の活動を規定しようとすれば、規則が細則化され、数値目標があふれ、企業活動のダイナミクスを損ないかねない。

ボストン コンサルティング グループ編『BCGが読む経営の論点2020』(日本経済新聞出版社)
ボストン コンサルティング グループ編『BCGが読む経営の論点2020』(日本経済新聞出版社)

そこで、急速な変化に直面する企業の中では、根源的な存在意義や社会との関係性を再定義し、構成員に浸透させ、それらに合致する形で、構成員の自律的な判断・行動を促す動きが強まっている。

世界の先端企業が重視する「パーパス」は、企業の存在価値を、社会や顧客に対して実現する付加価値で定義する。単に理念として存在価値を定めることにとどまらず、事業領域の設定など、戦略策定・実行の指針となる形で存在価値を定義することが肝である。加えて、構成員にとっては、存在意義の実現こそが、日々の複雑性に対応する際の行動指針となる。さらに、従業員が、存在意義の浸透プロセスを通じ、これに納得し、誇りを持てれば、意欲や責任感、組織への信頼を高めることにもつながる。

コロナ危機は事業環境の構造変化を加速する。経済を再始動できた後も、アフターコロナの新たな現実は危機前の現実とはまったく異なるものになるだろう。勝者として存在し続けられるのは、新たな現実に適応して企業体を大きく進化させた企業のみである。

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