超過死亡のうち7000人の死因が分からない

ところが、感染のピークが過ぎ、改めて国家統計局(ONS)が国内の介護施設での死者数を追ったところ、例年よりも異常な数の死者が出ていることが発覚。官邸発表の死者数と、自治体に寄せられた死亡届の数がまったく合わない事態となっている。

具体的には、こんな格好となっている。

・4/4~10の週=コロナ感染死者数:1534人、介護施設での死者数全体:4927人
・4/11~17の週=それぞれ2481人、7316人
・4/18~24の週=それぞれ2476人、7911人
・4/25~5/1の週=それぞれ1969人、6409人

上記をもとに計算すると、4週間の間に介護施設で亡くなった人は合わせて2万6563人。そのうち、1~3月の平均死者数を目安に1万1200人を差し引くと、超過死亡は約1万5000人となる。そのうち8460人はコロナ陽性が確定しているが、残る約7000人の死因は分からないままだ。

5月中旬に入り、さすがにこの状況はまずいと政府が認識し始めた。6月をめどに、介護施設の職員入所者全員のPCR検査を実施すると打ち出したほか、介護施設内で起きていることの透明性をより高めたいとする発言がようやく出てきている。

なぜこんなことが起きているのか

約7000人の死因が全てコロナ感染であると断定はしないまでも、数千人単位の誤差があるのはあまりに不可解過ぎはしないか。まさか介護施設がこぞって死因を隠蔽するわけがない。ではどういう事情が考えられるのだろうか。

この辺りの事情について、老人ホームでの勤務歴を持つ女性にこうした「数値のズレ」が起きた理由について聞いて尋ねてみた。

「英国では、介護施設に入所する際、あるいは入所後に『終末期医療』において蘇生措置拒否の書面に署名している高齢者が多い。コロナ感染で重症化したとしても積極的な治療を行わないことを、ご本人はもとより家族も受け入れているのではないか」

この推察をもとに、改めてイギリスの老人福祉機関などがコロナ禍においてどんな論議をしているか改めて調べてみた。すると、看過できない状況が浮かび上がってきた。

公共放送BBCによると4月の上旬、イングランド南部のある地域では、その自治体を管轄するNHSの経営陣が地元のかかりつけ医らにこんな文書を送っていたという。

感染でさらに苦しむなら入院は望ましくない?

曰く、「高齢者をはじめとする多くの脆弱な人々が新型コロナに感染した場合、治療のために入院が不可能な可能性がある」とし、全ての家庭に「感染してしまった場合に蘇生措置を受けたいかどうか確認しておいてほしい」と。

BBCは「終末期医療の準備のために、DNRあるいはDNACPR(いずれも蘇生処置拒否指示の意)と呼ばれる書面に署名するか否かを相談すること自体は珍しいことではない」としながらも、「この時期にケアマネージャーが高齢者がいる家族に署名について説明することは相当のプレッシャーがあったはずだ」と状況をおもんぱかる。