ところが、先のかかりつけ医に送られた文書には「虚弱な高齢者はコロナウイルスの肺合併症に必要な種類の集中治療に反応せず、実際に入院のリスクがある。さらに痛みや苦しみを悪化させる可能性もある」「したがって、コロナウイルス感染の場合、入院は望ましくないと考える」と記されていたという。

慈善団体は「個々のケースで判断する必要がある」と懸念

このような医療機関などでの動きが具体化する中、英国最大の高齢者向け慈善団体「AgeUK」は4月7日、「高齢者や脆弱な人々がDNACPRへの署名を迫られている中、利用できるケアと治療の選択肢について、「施設にいる高齢者については、ひとまとめ(包括的)に治療に対するスタンスを決めている危惧のある例が見られる」とした上で「患者、医師、家族の間での議論を通じて、リスクとメリット、および人々自身の希望を考慮して、個々のケースごとに判断する必要がある」とコロナ感染がピークを迎える危機に直面する中、こう指摘した。

ニューヨークをはじめとする、危機的状況に陥った街では、医療従事者が「いのちの選択に迫られるケースがあった」という話はあらゆる報道でわれわれも耳にした。ただ、こうした状況への対応について、国民健康サービス(NHS)イングランドは「病院で治療を受けることができる人を選択する際の全国的な統一見解はない」というのが実情なのだという。

最後の面会に必要な防護服にも苦労する

そうした中、マット・ハンコック保健相は、官邸での会見の際「介護施設利用者がコロナに感染した場合、入院を拒否されることはない」「ベッドの空きがある限りは、臨床的な決定に基づいて治療される」といった説明を行った。しかし、BBCは「介護施設という外から見えにくい場所で、塀の向こうでどんなことが起こっているか分からないという懸念がある」と指摘。施設職員向けの防護服やマスクが欠乏している中、連鎖的な感染が起こったにもかかわらず、充分な治療への対応が間に合わなかった可能性は否めない。

高齢者向けケア・介護施設を運営する慈善団体メゾディストホームズ(MHA)のサム・モナハン最高経営責任者(CEO)は、「NHSのスタッフは終末期医療への対応という『仕事』に慣れている。しかし、数カ月あるいは数年にわたって利用者との間に密接な個人的関係を築いている施設職員は、高齢者が死に直面している状況をなかなか受け入れられないかもしれない」と指摘。「施設職員らは、家族たちが(コロナで)息をひきとる肉親と最後のひとときを過ごせるよう、防護服を確保するのに苦労している」と厳しい状況を話している。

ちなみに、イギリスでもコロナ感染が判ったのちに病院で死去すると、日本や米国などと同じように「最後のお別れ」ができないまま葬られるのは言うまでもない。