安倍首相はスピーチで「根性ワード」を嫌というほど盛り込む

また、本当に知りたい「PCR検査数」「必要な病床数」「稼働している病床数」「病院の患者受け入れのキャパシティー」といった具体的な数字は出てこない。宣言解除の条件となるデータも示されない。

こうした数字は視覚的に変化を見せたほうがいい。筆者なら、発表者にしっかりとデータの意味を理解してもらったうえで、スライドで説明することを提案する。

こうしたロジックとエビデンスを重視したコミュニケーションのイロハは、ビジネスの現場ではもはや常識だろう。今や中高生でさえ授業発表で実践していることだが、わが国の宰相はこれができない。

ニューヨーク州知事のアンドリュー・クオモ氏の毎日の会見では、感染者数から、人工呼吸器、病床の数まで、必要なファクトがスライド上で網羅されており、その変化も視覚的に理解できるように工夫されている。

シドニーの日本領事館がとりまとめたこちらのレポートでも、いかにオーストラリア政府や州政府が、徹底的にデータに基づき、戦略性を持ってコミュニケーションをしているのかがわかる。

海外では多くの国が一定の数値分析に基づき、再開への道筋をつけ始めており、アメリカでは、米疾病対策センター(CDC)が、4月30日、企業や学校、教会、公共交通機関などが安全に営業を再開するための暫定的なガイドラインや条件を発表しているが、日本では、今後の見通しはまだ不透明のままだ。

「確か1カ月前にも同じようなことを言ってたよね?」

感情的な部分でも、相変わらず、気持ちは何も伝わってこない。

写真=代表撮影/ロイター/アフロ

この1カ月のわれわれの苦労と我慢がどれだけの成果を生んだのか、何が達成されたのかもあまり言及されず、「緩むな」とくぎを刺される。具体的な数字やデータ、エビデンスの代わりに、安倍首相のスピーチで嫌というほど盛り込まれているのは「根性ワード」だ。

「しっかり」「着実に」「あらゆる」「確実に」「間違いなく」「大胆な」「前例のない」「思い切った」「絶対に」「これまでにない」「なんとしても」……。こうした勇ましい言葉がいくつもちりばめられている。

さらに驚くのは、「します」の連発だ。「検査体制をさらに拡充していきます」「自治体ごとの体制構築を支援していきます」「医療防護服についても増産や輸入を強化します」……。「確か1カ月前にも同じようなことを言ってたよね?」とツッコミをいれたくなる未来形の表現が並ぶと、一体これまで何が達成されたのかと不安になる。

「ここまで医療体制が整備された」「マスクはここまで確保した」など、数字でこれまでの成果を示してもらいたい。何より、国民は第2波、第3波に耐えられる体制づくりがどこまで進んでいるのかを知りたいのだ。

明確なロードマップが示されないまま、消化不良気味で聞き終わって、はたとまた思う。一体、この会見は何を言いたかったのか、目的は何だったのか、と。