枠内発想では変化の激しい時代に対応できない
私と同じデザインスクール(イリノイ工科大学Institute of Design)で修士課程を学んだ岩嵜博論さんは、現在、博報堂のミライの事業室でビジネスデザインディレクターを務めています。
岩嵜さんの『機会発見――生活者起点で市場をつくる』(英治出版)では、枠内発想と枠外発想という言葉が出てきます。
ビジネスの現場では、MECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive:モレなく、ダブりなく)の考え方が重要視されます。
これは検討し得る要素を網羅的に並べ、抜け漏れがないように分析・検討を進めるための考え方です。まさに限定的な状況の中で思考を行う枠内発想になります。
MECEなどの枠内発想は、現状の分析にこそ役に立ちますが、新しいアイデアを創出するには適切な思考アプローチとは言えません。
今、ビジネスパーソンに求められる「枠外発想」
ロジカルに考えれば、誰でも――例えば競合企業であっても――同じ結論に達することになり、競争優位性のあるアイデアを生むことは難しくなります。
そうではなく、論理思考では到達し得ないようなアイデアを探索し、その思考の枠を取り払ったところに今まで気づかなかったマーケットがあるのではないか、というのが「枠外発想」と呼ぶものです。
TOMMY HILFIGERという紳士服で有名なアメリカのブランドは、最近アダプティブ・クロージングという分野を開拓しています。これは手足が不自由だったり、障害のある方が簡単にシャツやジャケット、ジーンズなどを着脱できるようにした洋服です。
ブランドの持つ優れたデザイン性を損なわず、障がいのある方もクールな着こなしを楽しめることもあり広くメディアでも取り上げられています。
これまでこうした分野は、マーケットも小さく大きな収益をもたらすことはないと考えられていたため、ロジカルに考えればブランドとして向き合う必要はありません。
しかし、こうした枠外発想を通じた新市場の開拓をすることで、TAM(Total Addressable Market:最大獲得市場)を広げることができます。
どこに枠があり、その枠の外側にあるのは何かを突き詰めて、自分の中の枠を取り払うのが、TAMを広げるチャンスにつながっていくのだと言えます。