「枠外発想」がアップルストアの魔法を生み出す

枠外発想ができると大きく2つのメリットがあります。

①新しいマーケットを創出するアイデアを生み出せる

枠外発想で既存のマーケットにはないアイデアを見つけることができれば、その分野で先行者になれます。これからの時代は、きめ細かなリサーチや分析を通じて自分たちが勝負できるマーケットを探すより、「マーケットをつくり出す」という意識を持つ必要があります。

②高いエンゲージメント(結び付き)を実現できる

これは、ユーザに愛されるプロダクトになるという意味です。私の知人は、普段は家電を買うときはポイントがつくので大手の家電量販店で購入するそうですが、iPhone 11 ProはApple Storeで買ったと話していました。

iPhone 11 Proは11万円もするので、家電量販店だとポイントがたくさんつくのは明らかです。なぜ、ポイントがつかないApple Storeで買ったのか。それを聞いても、本人は「どうしてだろう。好きだから?」と首をかしげていました。

新しい製品が発売されるたびにApple Storeの前には行列ができるように、Apple Storeには魔法にかかってしまうような魅力があります。

論理的に考えたら家電量販店で買った方が得なのに、それを上回る心理的なつながりや感情面への訴求がこうした非合理的な購買行動をつくり出しています。

機能や利便性を超えた感情に響くサービス・製品を作る

ユーザに機能や利便性だけを提供しようとしている限り、枠外には出られません。ユーザに癒やされてほしい、誇らしいと思ってほしい、安心感を持ってほしいなど感情ベースに考えると、それがユーザにも伝わり、感情的なつながりが生まれやすくなります。

デザインスクールでは行動経済学も学んだのですが、その分野の大家でもありノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン氏は合理的に考える人間像を「エコノ」と呼び、リアルに近い人間像を「ヒューマン」と呼んでいます。

ビジネスの現場では、人間のことを、ロジカルに意思決定をし、合理的な経済人である「エコノ」として扱う傾向にありますが、デザインスクールでは人間はバイアスにまみれた非合理的な存在である「ヒューマン」として捉えるという違いがあります。

ポイントがつくから家電量販店で買うという行動は「エコノ」で、ポイントがつかなくてもお気に入りの店で買うのは「ヒューマン」の行動と言えます。

今までのビジネスでは「エコノ」を満足させるのが顧客のニーズにつながると考えてきました。それをヒューマンを満足させる方向にシフトさせることで、合理的欲求のみならず、感情的価値にも響くようなサービスやプロダクトを創ることができます。そのためにも、アイデアを探しに枠外に行く冒険が必要になるのです。