元従業員とは音信不通に
気掛かりなのは最後まで残っていた元従業員たちのこと。
「こちらの生活が一段落してから連絡してみたのですが電話が通じなかったり、封書は宛先人不明で返送されてきたりしました。辛酸を舐めているのか、新しい生活を始められたのか。やっぱり気になりますよ」
自分自身もそうだが、会社が倒産しなければ不安な思いや嫌な思いをしなくて済んだ。金銭的な困窮も回避できたはず。そう思うと申し訳ないとしか言えない。
親から引き継いだ会社は雲散霧消、個人的な資産はすべて消失。破産者だから社会的信用も失墜した。従業員たちの人生にも汚点を付けてしまったという負い目は一生消えることはないと思っている。
「だけどね、ホッとしたところもあるんですよ。従業員や取引関係の人たちに多大な迷惑を掛けたけど長年背負い続けていた重たい荷物を下ろすことができたから。会社が潰れて良かったわけじゃないけど、もう苦しまなくていいという思いもあるんだ」
「もっと早くに負けを認めていたらな」
最後は冷静な判断ができ、法的にもきれいさっぱり清算できた。世の中には法的処理の費用が工面できずに放置逃亡する経営者も多いと聞く。それに比べたらリセットできたのは上出来だと思う。
「社長失格の自分がこんなこと言ったら怒られるかもしれませんが、どうしてあんなに頑張ってしまったのかと思うこともあります。赤字決算が3年続いたところで自主廃業するという手もあったと思うんです。借入れ金の担保をすべて処分すれば若干のプラスになる可能性が高かった。それを従業員たちの再就職支援に回せることもできただろうし、わたし個人もすべての資産をゼロにしないで済んでいたかもしれない。冷静じゃいられなかったけど、もっと早くに負けを認めていたらなと後悔する部分はあります」
今の生活も不安が大きい。この先、またマイホームを手に入れるのは不可能だからずっとアパート暮らし、高齢者になったときに部屋を貸してもらえるか分からない。老後に備えた蓄えもほとんどない。契約社員の仕事もいつまで使ってもらえるか分からない。今のところは夫婦とも生活習慣病や慢性疾患は抱えていないが、重い病気になったときに医療費や入院費を払えるか……。考えると暗くなるばかりだ。